自白・権利自白

[作成・更新日:2018.1.10]

 口頭弁論又は弁論準備手続において相手方が主張する自己に不利な主要事実を認めることを「裁判上の自白」又は単に「自白」といい、自白された事実については、証明する必要がなく(民事訴訟法179条)、裁判所の判断を拘束します(裁判所に対する拘束力)。
 自白者に対する拘束力として、自白の撤回は原則認められませんので、主要事実についての陳述には十分に気をつける必要があります。
 「権利自白」(権利又は法律関係についての自白)は、事実の自白ではなく、「裁判上の自白」には該当しないため、撤回は可能であるといわれますが、必ず撤回が認められる保証はないので、うかつな権利自白(無効の抗弁に強い自信があるため、被疑侵害品の構成要件充足性については争わない等)には注意が必要です。

 

<自白>
● 東京地判平19・12・14 平成16年(ワ)25576
「 均等侵害につき,均等の本質的部分,置換可能性,置換容易性の要件を満たすことは,被告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。」

 

● 知財高判平22・6・17 平成21年(ネ)10050
「 主張の変更は、本件DVD・・・の輸入・頒布について成立した自白を撤回するものであって、これが認められるためには、①自白した事実が真実に合致せず、かつ、自白が錯誤によること(大審院大正10年(オ)第662号同11年2月20日第二民事部判決・民集1巻52頁)、②刑事上罰すべき他人の行為により自白したこと(最高裁昭和30年(オ)第416号同33年3月7日第二小法廷判決・民集12巻3号469頁)、③相手方の同意があることのいずれかの事実が認められることが必要である。

 

● 東京地判平23・8・19 平成20年(ワ)28967
「 原告は、被告は、平成20年11月25日付け被告準備書面(1)により、被告製品の構成要件Cの充足性を認めたから、自白が成立すると主張する。しかしながら、本件の審理の経過に照らすと、被告は、「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義について、「納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する状態のもの」との理解の下に構成要件充足性を認めたものと理解されるのであって、上記認定のとおり、その解釈を前提とした自白は真実に反し、錯誤に出たものと認められるから、自白の成立は認められない。」

 

● 大阪地判平25・7・16 平成23年(ワ)10590
「 自白(民事訴訟法179条)は、具体的な事実について成立するものであり、ある事実を前提とした抽象的な評価について成立するものではない。この点、被告製品の構成に係る原告及び被告らの主張に係る「緊密に挿嵌」との文言は、嵌合突起8(下方膨出部80)を嵌合孔10に挿嵌させたときの状態を評価したものであり、事実そのものではない。・・・そのため、かかる抽象的な評価の前提となっている嵌合突起8や嵌合孔10の形状等の事実関係について自白が成立したと見る余地はあるものの、挿嵌時の状態が「緊密に挿嵌」と表現されるべきものとの点について自白が成立したとはいえないし、ましてや構成要件Cの一部である「緊密に挿嵌」を充足するとの点について自白が成立したともいえない。」

 

● 知財高判平26・1・29 平成25年(ネ)10072
※ 上記平成23年(ワ)10590の控訴審(上記判断を支持)

 

<権利自白>
● 東京地判平19・1・30 平成15年(ワ)23981 判時1971号3頁 、判タ1256号211頁 「キヤノン職務発明事件」
「 被告は、原告が、本件特許発明の被告主張にかかる技術的範囲を認める陳述を行ったとして、これを援用して先行自白の成立を主張する。しかし、特許発明の技術的範囲に関する技術事項の細部にわたる主張とその認否は、主要事実の自白となり得るものではないことは明らかであるから、これについて裁判所も当事者も拘束されることはない。」

 

● 知財高判平21・1・27 平成19年(ネ)10075
「 イ号物件及びロ号物件の各構成の構成要件E及びFに対する当てはめ・・・は、規範的な評価を内容とする法律判断であるから、控訴人らが、かかる当てはめについて被控訴人の主張と一致する陳述をしたとしても、それはいわゆる権利自白に類するものというべく、したがって、控訴人らに対し、事実についての自白と同様の拘束力が及ぶものではないと解するのが相当である。そうすると、控訴人らは、上記陳述の変更をするについて、自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づくものであることの立証を要するものではない。」

 

● 東京地判平21・2・19 平成20年(ワ)21343
「 被告らが第1回口頭弁論期日において、原告の請求の棄却を求めたこと、被告らの答弁書及び平成20年9月24日付け「準備書面1」の記載内容、その他弁論の全趣旨に照らせば、被告Bは、和解による解決を希望し、和解の条件についての提案をする趣旨で上記陳述をしたものであると認められ、被告Bの上記陳述をもって、事実についての陳述を含むものであると解することはできない。被告Bの上記陳述は、せいぜい事実に基づく法律効果の成否に関するものであって、いわゆる権利自白の類のものであり、被告Bに対し、事実についての自白と同様の拘束力が及ぶものではないと解するのが相当である。」

 

● 東京地判平22・4・28 平成18年(ワ)24088
「 原告は、被告らが「恋愛の神様(NTTドコモ)」の文章等の著作権が原告にあることを自白した旨を主張するようであるが、そもそも権利の存在に関する自白は権利自白にすぎず拘束力を認めることはできない。」

 

● 大阪地判平25・7・16 平成23年(ワ)10590
「 自白(民事訴訟法179条)は、具体的な事実について成立するものであり、ある事実を前提とした抽象的な評価について成立するものではない。この点、被告製品の構成に係る原告及び被告らの主張に係る「緊密に挿嵌」との文言は、嵌合突起8(下方膨出部80)を嵌合孔10に挿嵌させたときの状態を評価したものであり、事実そのものではない。・・・そのため、かかる抽象的な評価の前提となっている嵌合突起8や嵌合孔10の形状等の事実関係について自白が成立したと見る余地はあるものの、挿嵌時の状態が「緊密に挿嵌」と表現されるべきものとの点について自白が成立したとはいえないし、ましてや構成要件Cの一部である「緊密に挿嵌」を充足するとの点について自白が成立したともいえない。」

 

● 知財高判平26・1・29 平成25年(ネ)10072
※ 上記平成23年(ワ)10590の控訴審(上記判断を支持)