[作成・更新日:2018.1.10]
1.中華人民共和国専利法について
・専利法は、1985年4月1日に施行されて以来、3度の法改正が行われています。特に2009年10月1日に施工された第3次改正では、特許要件の基準の引き上げ(22条)、特許及び実用新案の重複特許の明確化(9条)、中国国内で完成させた発明の中国第一国出願義務から秘密保持審査への移行(20条)、意匠登録出願の改正(23条,31条等)、損害賠償額の引き上げ(65条)を含め多くの重要な改正がなされました。また、部分意匠の導入、職務発明に関する規定の改正、懲罰的損害賠償額の導入等を含め多くの重要な改正を盛り込んだ第4次改正も予定されています。
2.秘密保持審査について
・中国国内で完成した発明を外国に出願する場合、まず中国国家知識産権局(中国特許庁)による秘密保持審査を受けなければなりません(20条)。秘密保持審査を受けずに外国に出願した場合、中国では特許は付与されません(20条)。
・秘密保持審査は、発明者の国籍に関係なく、発明の実質的な内容が中国国内で完成されたか否かによってその要否が決定されます(細則8)。
・秘密保持審査は、国の安全又は重大な利益に関係する発明を外国に流出しないようにすることを目的としていますが、このような発明に該当するケースは稀ですので、秘密保持審査によって外国への出願が不可と決定されるケースは極めて少ないです。
・秘密保持審査の請求は次のように行います(細則8)。
(1)中国に出願せず、直接外国に出願する場合又は外国機構を受理官庁としてPCT国際出願する場合、外国に出願する前に、中国特許庁に秘密保持審査請求書と発明の説明書を提出しなければなりません(審査指南5部分5章6.1.1)。実務上、出願予定の明細書と同程度に詳細な説明書を提出します。
(2)中国に出願してから外国に出願する場合、中国に出願するのと同時に又はその後外国に出願するまでに、中国特許庁に秘密保持審査請求書を提出しなければなりません(審査指南第5部分5章6.2)。
(3)中国特許庁を受理官庁としてPCT国際出願する場合、出願と同時に秘密保持審査請求書を提出したものとみなされます(細則8)。
3.特許出願/PCT国内移行
・出願に際し、明細書、クレーム(権利要求書)及び要約が必要となります(26条)。図面は必要なときに添付します(26条)。
・日本の場合とクレームドラフティングの実務が異なるところがあります。中国出願時に修正するようにしてもよいのですが、基礎出願(日本出願)やPCT国際出願において、中国(や米国、欧州といった出願メジャー国)を意識してクレームドラフティングするというのも考え方の一つです。
・従属クレームの従属形式について、米国と同様、多項制従属クレーム(いわゆる「マルチクレーム」)に従属する多項制従属クレーム(いわゆる「マルチのマルチクレーム」)は認められません(細則22)。
・特許出願と実用新案登録出願を同日に出願することで、特許権を取得するまでの間、実用新案権により発明を保護することができます(9条、細則41)。ただし、特許権を取得する際に実用新案権を放棄しなければならず、放棄しない場合には、特許出願が拒絶されます(9条)。
・PCT国際出願の中国への移行については、優先日から30ヶ月以内に行わなければならない移行手続において(細則101,103)、翻訳文を提出する必要があります(細則104)。ただし、延長費用を支払うことで30ヶ月を32ヶ月に延長することができます(細則103)。
4.誤訳の問題について
・中国語に翻訳する際の誤訳のおそれから、一度中国語に翻訳したものを日本語に逆翻訳して確認したり、出願人自身が翻訳文をチェックするようなことが行われます。以前よりは誤訳の問題は減ってきていると思われますが、出願時や補正時の特にクレームの翻訳チェックは重要です。
5.出願公開
・出願は出願日(又は優先日)から18ヶ月後に公開されます(34条)。
6.審査請求
・審査請求の期限は、出願日(又は優先日)から3年以内です(35条)。
7.実体審査、拒絶理由通知、特許査定
・指定された審査官により、その出願が特許に値するか否か(特許要件があるか否か)が審査されます(37条)。その出願が特許に値しないと審査官が判断する場合、拒絶理由が通知されます(37条、細則53)。一方、その出願が特許に値すると審査官が判断する場合、特許査定が発行されます(39条)。
・拒絶理由通知に対し、出願人は、意見書や補正書を提出して反論することができます(37条,33条、細則51)。
・審査官が拒絶理由通知に対する意見書等を判断した結果、新たな拒絶が必要となった場合に、2回目の拒絶理由が通知されます(審査指南2部分8章4.11.3)。
・拒絶理由は少なくとも1回通知されますが、拒絶理由通知への対応によっても、審査官が特許査定できないと判断した場合、出願は拒絶となります(38条)。
8.再審査請求
・再審査請求とは、審査官の判断を不服として再審委員会に対し、その判断の撤回を求め、再検討を請求する手続をいいます(41条、細則60)。
・出願人は、再審査を請求し又は再審委員会の再審通知書(拒絶理由通知書)に回答する時に、拒絶査定又は再審通知書で指摘された欠陥を除去する場合に限り、補正をすることができます(細則61)。
・日本と同様、まず審査を行った審査官によって前置審査が行われ(細則62)、前置審査でも特許要件を満たさないと判断されると、再審委員会(合議体)による審理が行われます。
9.特許料納付、特許発行、特許公報発行
・特許査定を受けると、特許料を納付することで特許が発行され、特許公報が発行されます(細則54)。
参考)
・ 中国特許法 - 専利法(英訳)(参照仮訳)
・ 中国特許法施行規則 - 専利法実施細則(英訳)(参照仮訳)
・ 特許審査基準 - 専利審査指南(参照仮訳) /一部改正 (2013年10月15日実施)(参照仮訳)