結合商標

[作成・更新日:2018.1.10]

 結合商標とは、文字、図形、記号等を結合して構成される商標をいいます(商標法2条1項)。結合商標の類否判断については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している場合には、その構成部分の一部を抽出して他人の商標との類否を判断することは原則許されないが、商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じない場合などには、それが許され(下記「リラ宝塚事件」最高裁判決)、その上で、「商標の類否判断」で紹介した「氷山印事件」最高裁判決によって示された判断基準に則して商標の類否判断が行われることになります。

<参考>商標審査基準

 

● 最判昭38・12・5 昭和37年(オ)953 民集17巻12号1621頁、裁判集民事70号65頁 「リラ宝塚事件」
「 商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことが許されない・・・しかし、簡易、迅速をたつとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(昭和三六年六月二三日第二小法廷判決、民集一五巻六号一六八九頁参照)。しかしてこの場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。
 いま本件についてこれをみるのに、本願商標は、第四類石鹸を指定商品とするものであるが、古代ギリシャで用いられていたというリラと称する抱琴の図形と「宝塚」なる文字との結合からなり、しかも、これに「リラタカラズカ」、「LYRATRATAKARAZUKA」の文字が添記されているのである。従って、この商標よりリラ宝塚印なる称呼、観念の生ずることは明らかであり、上告人会社の本願商標作成の企図もここにあったものと推認するのに十分である。しかし、原判決の確定した事実によれば、右図形が古代ギリシャの抱琴でリラという名称を有するものであることは、本願商標の指定商品たる石鹸の取引に関係する一般人の間に広く知れわたっているわけではなく、これに対し、宝塚はそれ自体明確な意味をもち、一般人に親しみ深いものであり、しかも、右「宝塚」なる文字は本願商標のほぼ中央部に普通の活字で極めて読みとり易く表示され、独立して看る者の注意をひくように構成されている、というのである。されば、かかる事実関係の下において、原判決が右リラの図形と「宝塚」なる文字とはそれらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではないから、本願商標よりはリラ宝塚印の称呼、観念のほかに、単に宝塚印なる称呼、観念も生ずることが少なくないと認めて、ひとしくその指定商品を第四類石鹸とする引用商標たる「宝塚」と称呼、観念において類似すると判断したことは、正当であって、所論の違法はない。」

結合商標1

 

● 最判平5・9・10 平成3年(行ツ)103 民集47巻7号5009頁、裁判集民事169号773頁 「セイコーアイ事件」
「 審決引用商標は、眼鏡をもその指定商品としているから、右商標が眼鏡について使用された場合には、審決引用商標の構成中の「EYE」の部分は、眼鏡の品質、用途等を直接表示するものではないとしても、眼鏡と密接に関連する「目」を意味する一般的、普遍的な文字であって、取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有するものではないというべきである。一方、審決引用商標の構成中の「SEIKO」の部分は、わが国における著名な時計等の製造販売業者である株式会社服部セイコーの取扱商品ないし商号の略称を表示するものであることは原審の適法に確定するところである。
 そうすると、「SEIKO」の文字と「EYE」の文字の結合から成る審決引用商標が指定商品である眼鏡に使用された場合には、「SEIKO」の部分が取引者、需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それとの対比において、眼鏡と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「EYE」の部分のみからは、具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「SEIKOEYE」全体として若しくは「SEIKO」の部分としてのみ称呼、観念が生じるというべきである。
 原審は、株式会社服部セイコーが、同社の販売する時計について統一的に「SEIKO」の表示を用いるとともに、各商品を区別するために、「DOLCE」等のマークを使用していることから、審決引用商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「EYE」の部分は、株式会社服部セイコーの取扱いに係る「EYE」印の商品を表示するものと認識すると判断しているが、株式会社服部セイコーが審決引用商標を使用した指定商品に属する商品を実際に販売しているとの事実は原審の認定していないところであり、また、前記認定のとおり取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有しない一般的、普遍的な文字である「EYE」が、そうではないこと明らかでありかつ実際に販売されている時計に使用されている「DOLCE」等の文字と同様に株式会社服部セイコーの販売する商品の出所識別標識となる、ということはできない。
 これを要するに、前記認定の事情に照らせば、審決引用商標の「EYE」の文字部分のみからは、称呼、観念は生じないというべきであるから、右部分に自他商品を識別する機能がないとはいえないとした原審の説示には、商標の類否に関する法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。・・・
 そして、・・・本願商標から、「SEIKO EYE」若しくは「SEIKO」の称呼、観念が生じないこと、本願商標と審決引用商標とが外観において類似していないことは明らかというべきであるから、本願商標が審決引用商標と類似するとした審決の判断は違法である。」

※ 知財高裁が外国向けにトピック判決として紹介しているケース

結合商標2

 

● 最判平20・9・8 平成19年(行ヒ)223 裁判集民事228号561頁 「つつみのおひなっこや事件」
「 法4条1項11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)。
 これを本件についてみるに、本件商標の構成中には、称呼については引用各商標と同じである「つつみ」という文字部分が含まれているが、本件商標は、「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから、「つつみ」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。また、前記事実関係によれば、引用各商標は平成3年に商標登録されたものであるが、上告人の祖父は遅くとも昭和56年には堤人形を製造するようになったというのであるから、本件指定商品の販売業者等の取引者には本件審決当時、堤人形は仙台市堤町で製造される堤焼の人形としてよく知られており、本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分から地名、人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念が生じるとしても、本件審決当時、それを超えて、上記「つつみ」の文字部分が、本件指定商品の取引者や需要者に対し引用各商標の商標権者である被上告人が本件指定商品の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできず、他にこのようにいえるだけの原審認定事実は存しない。さらに、本件商標の構成中の「おひなっこや」の文字部分については、これに接した全国の本件指定商品の取引者、需要者は、ひな人形ないしそれに関係する物品の製造、販売等を営む者を表す言葉と受け取るとしても、「ひな人形屋」を表すものとして一般に用いられている言葉ではないから、新たに造られた言葉として理解するのが通常であると考えられる。そうすると、上記部分は、土人形等に密接に関連する一般的、普遍的な文字であるとはいえず、自他商品を識別する機能がないということはできない。
 このほか、本件商標について、その構成中の「つつみ」の文字部分を取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできないから、本件商標と引用各商標の類否を判断するに当たっては、その構成部分全体を対比するのが相当であり、本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分だけを引用各商標と比較して本件商標と引用各商標の類否を判断することは許されないというべきである。
 そして、前記事実関係によれば、本件商標と引用各商標は、本件商標を構成する10文字中3文字において共通性を見いだし得るにすぎず、その外観、称呼において異なるものであることは明らかであるから、いずれの商標からも堤人形に関係するものという観念が生じ得るとしても、全体として類似する商標であるということはできない。
 以上によれば、本件商標と引用各商標が類似するとした原審の判断には、商標の類否に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。」

結合商標3

 

● 知財高判平27・11・5 平成27年(ネ)10037
「 商標の類否は、対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
 また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは、原則として許されないが、他方で、商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じない場合などには、商標の構成部分の一部だけを取り出して、他人の商標と比較し、その類否を判断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
・・・
 ・・・原告商標の上段部分の「ラドン健康パレス」及び下段部分の「湯~とぴあ」の各部分は、指定役務との関係では、いずれも出所識別力が弱いものであって、・・・不可分一体として理解されるべきものである。したがって、原告商標については、上段部分の「ラドン健康パレス」と下段部分の「湯~とぴあ」の部分を分離観察せずに、全体として一体的に観察して、被告標章との類否を判断するのが相当である。
・・・
 ・・・被告標章の上段部分のうち、「湯~トピア」及び「かんなみ」の各部分は、同様の字体で、1行でまとまりよく記載されている上に、いずれも出所識別力が弱いものであって、・・・不可分一体として理解されるべきものである。したがって、被告標章の上段部分のうち、「湯~トピア」の部分だけを抽出して、原告商標と比較して類否を判断することは相当ではなく、被告標章のうち、上段部分の、「湯~トピア」と「かんなみ」の部分を分離観察せずに、一体的に観察して、原告商標との類否を判断するのが相当である。
・・・
 ・・・原告商標と、被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分である「湯~トピアかんなみ」とを対比すると、・・・称呼及び観念を異にするものであり、また、外観においても著しく異なるものであることが明らかである。その上、・・・原告商標と被告標章とが、入浴施設の提供という同一の役務に使用されたとしても、取引者及び需要者において、その役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。したがって、被告標章は、原告商標に類似しないというべき。」

結合商標4