均等論

[作成・更新日:2018.1.10]

 特許請求の範囲に記載された特許発明の構成と一部異なる部分があるため、特許権の文言侵害とはならない場合であっても、一定の要件を満たしていれば、特許権の効力が及ぶ範囲を拡張して侵害を認める理論を均等論といいます。
 最高裁は、「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、
(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく(均等の第1要件)、
(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(均等の第2要件)、
(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(均等の第3要件)、
(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく(均等の第4要件)、かつ、
(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない(均等の第5要件)
ときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」と判示しました(下記「無限摺動用ボールスプライン軸受事件」最高裁判決)。これ以後の知財訴訟における均等侵害の判断の規範となっています。
 しかし、実際のところは、以下に掲載した地裁及び高裁の裁判例からわかるとおり、第1要件や第5要件が非充足であるとして均等侵害が認められるケースは非常に少なく、均等論の実効性が問われるところでした。
 下記「中空ゴルフクラブヘッド事件」知財高裁判決は、第1要件でなく第2要件から判断することで、第1要件の判断を充足側にシフトさせやすくする考え方を示しましたが、特に地裁において定着するには到りませんでした。
 そうしたところ、下記「マキサカルシトール事件」知財高裁大合議判決が出されました。この大合議判決は、均等の5つの要件の主張立証責任並びに第1要件と第5要件の判断手法について判断したものです。今まで指摘されてきた均等論の問題点を解決し、均等侵害をより認めやすくする考え方を示したことで、権利者側には有利なものとして評価されています。他方、非権利者側には他社権利対策の負担を今まで以上に強いるものであることが予測されるところ、今後の対応を見直す必要があるのかどうかも含め、自社における他社権利対策が十分なものかどうかを改めて検証するいい機会かと思われます。
(この知財高裁大合議判決は、平成29年3月24日に出された上告審の最高裁判決によって確定することになりました。)

 

● 最判平10・2・24 平成6年(オ)1083 民集52巻1号113頁 「無限摺動用ボールスプライン軸受事件」
【総論】
「 (一)特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となるのであって、(二)このような点を考慮すると、特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当であり、(三)他方、特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから右出願時に容易に推考することができた技術については、そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから(特許法二九条参照)、特許発明の技術的範囲に属するものということができず、(四)また、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されない

 

● 大阪地判平10・9・17 平成8年(ワ)8927 知裁集30巻3号570頁、判時1664号122頁 「徐放性ジクロフェナクナトリウム製剤事件」
【第1要件】
「 特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の作用効果を生じるための部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。・・・特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、公知技術では達成し得なかった目的を達成し、公知技術では生じさせることができなかった特有の作用効果を生じさせる技術的思想を、具体的な構成をもって社会に開示した点にあるといえる。このように考えると、明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、当該特許発明特有の作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的部分が特許発明における本質的部分であると理解すべきであり、対象製品等がそのような本質的部分において特許発明の構成と異なれば、もはや特許発明の実質的価値は及ばず、特許発明の構成と均等であるとはいえない。そして、右の特許発明における本質的部分を把握するに当たっては、単に特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に取り出すのではなく、当該特許発明の実質的価値を具現する構成が何であるかを実質的に探求して判断すべきである。」

 

● 東京地判平10・10・7 平成3年(ワ)10687 判時1657号122頁、判タ987号255頁 「負荷装置システム事件」
【総論】
「 特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と対象製品の対応する部分が特許発明の本質的部分でない所で一部異なっていても、技術的に同じ作用効果を奏し同じ目的を達成する実質的に同じ技術で、かつ、特許請求の範囲の記載を当業者が技術的知識をもって読めば、対象製品の当該構成を採用しても同じ作用効果を奏することが容易に理解できるという意味で、実質的には特許請求の範囲として記載されているといえるものを、特許請求の範囲に記載された特許発明と実質的に同じものと法的に評価して、特許発明の技術的範囲に属すると認めるものである。・・・対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるという規範的評価と右<1>ないし<5>の各事実とのいわゆる要件事実論的な説明はさておき、事柄の性質上実質的同一にかかわる右<1>ないし<3>の事実の証明責任は、均等を主張するものが負担し、適用除外事由にかかわる<4>及び<5>の事実の証明責任は、均等を否定する者が負担するものと解するのが相当である

【第3要件】
「 想到の容易さの程度は、特許法二九条二項所定の、公知の発明に基づいて「容易に発明をすることができた」という場合とは異なり、当業者であれば誰もが、特許請求の範囲に明記されているのと同じように認識できる程度の容易さと解すべきである。

 

● 東京地判平11・1・28 平成8年(ワ)14828等 判時1664号109頁、判タ994号292頁 「徐放性ジクロフェナクナトリウム製剤事件」
【第1要件】
「 特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的な部分、言い換えれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。すなわち、特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための、従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を、具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから、明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分が特許発明における本質的部分であると理解すべきであり、対象製品がそのような本質的部分において特許発明の構成と異なれば、もはや特許発明の実質的価値は及ばず、特許発明の構成と均等ということはできないと解するのが相当である。
 そして、発明が各構成要件の有機的な結合により特定の作用効果を奏するものであることに照らせば、対象製品との相違が特許発明における本質的部分に係るものであるかどうかを判断するに当たっては、単に特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に取り出すのではなく、特許発明を先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で、対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか、それともこれとは異なる原理に属するものかという点から、判断すべきものというべきである。」

 

● 東京高判平11・5・13 平成10年(ネ)4816
【第3要件】
「 「容易」とは、特許法二九条二項の規定における「容易」のように、当業者が当該時点における技術水準に基づいて創作力を行使すれば想到することができるという意味の容易性ではなく、原判決にいう「当業者であれば誰もが、(特許発明の)特許請求の範囲に明記されていると同じように認識できる程度の容易さ」でなければならないと解するのが相当である。

 

● 大阪地判平11・5・27 平成8年(ワ)12220 判時1685号103頁 「ペン型注射器事件」
【総論】
「 被告は、間接侵害の場合には、均等の適用について厳格に解すべきであると主張するが、当該特許方法又は当該特許方法と均等の範囲にある方法の実施にのみ使用する物の製造、販売等は、直接特許権を侵害する場合と同じく特許権の効力を及ばしめるものとするのが特許法一〇一条の趣旨に適合するものというべきであるから、当該特許方法と均等の範囲にある方法の実施にのみ使用される物を製造、販売する行為を間接侵害に含ましめないとする根拠はなく、被告の主張を採用することはできない。」

【第5要件】
「 手続補正により付加された「ほぼ垂直に保持された状態で」との要件は、右の拒絶理由通知における特許拒絶理由を回避するために付加された要件ではないことは明らかであり、しかもこれ自体は前記のように注射液を調製する際の常套手段を記載したにすぎないから、これをもって特許請求の範囲の記載から意識的に除外されたものに当たる特段の事情があるということはできない。

 

● 知財高判平18・9・25 平成17年(ネ)10047 「椅子式マッサージ機事件」
【第5要件】
「 特許侵害を主張されている対象製品に係る構成が、特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたというには、特許権者が、出願手続において、当該対象製品に係る構成が特許請求の範囲に含まれないことを自認し、あるいは補正や訂正により当該構成を特許請求の範囲から除外するなど、当該対象製品に係る構成を明確に認識し、これを特許請求の範囲から除外したと外形的に評価し得る行動がとられていることを要すると解すべきであり、特許出願当時の公知技術等に照らし、当該対象製品に係る構成を容易に想到し得たにもかかわらず、そのような構成を特許請求の範囲に含めなかったというだけでは、当該対象製品に係る構成を特許請求の範囲から意識的に除外したということはできないというべきである。

 

● 知財高判平24・9・26 平成24年(ネ)10035 判時2172号106頁、判タ1407号167頁
【第5要件】
「 明細書に他の構成の候補が開示され、出願人においてその構成を記載することが容易にできたにもかかわらず、あえて特許請求の範囲に特定の構成のみを記載した場合には、当該他の構成に均等論を適用することは、均等論の第5要件を欠くこととなり、許されないと解するべきである。

 

● 知財高判平25・6・6 平成24年(ネ)10094 「盗難防止用連結具事件」
【総論】
「 文言上、特許請求の範囲に記載された発明と異なる構成を被告各製品が有しているとしても、一定の要件を充たす場合には例外的にこれと均等と評価されるものとして侵害を認める考え方が均等論であり、この理は、クレームが機能的に記載された構成であるか否かによって変わるものではないから、機能的クレームについてのみ、文言侵害が否定されたからといって、均等論の適用が当然に否定されるべき理由はない。

 

● 知財高判平28・3・25 平成27年(ネ)10014 「マキサカルシトール事件」
【立証責任】
「 第1要件ないし第5要件の主張立証責任については、均等が、特許請求の範囲の記載を文言上解釈し得る範囲を超えて、これと実質的に同一なものとして容易に想到することのできるものと認定される範囲内で認められるべきものであることからすれば、かかる範囲内であるために要する事実である第1要件ないし第3要件については、対象製品等が特許発明と均等であると主張する者が主張立証責任を負うと解すべきであり、他方、対象製品等が上記均等の範囲内にあっても、均等の法理の適用が除外されるべき場合である第4要件及び第5要件については、対象製品等について均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任を負うと解するのが相当である。

【第1要件】
「 特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための、従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を、具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって、特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
 そして、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段 (特許法36条4項、特許法施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項参照)を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち、特許発明の実質的価値は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり、そして、①従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化したものとして認定され(後記ウ及びエのとおり、訂正発明はそのような例である。)、②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される。
 ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時(又は優先権主張日。以下本項(3)において同じ)の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そのような場合には、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に比べ、より特許請求の範囲の記載に近接したものとなり、均等が認められる範囲がより狭いものとなると解される。
 また、第1要件の判断、すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には、特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で、本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく、上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し、これを備えていると認められる場合には、相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり、対象製品等に、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても、そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。」

※ 構成要件区分説でなく、多数説の解決原理同一説を採用している。その上で、「本質的部分」の定義は、これまでの裁判例で引用されることが多かった上記「徐放性ジクロフェナクナトリウム製剤事件」判決で示された定義(青字箇所)よりも簡素化されている。

【第5要件】
「 特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして、出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり、したがって、出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても、そのことのみを理由として、出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。
 なぜなら、①上記のとおり、特許発明の実質的価値は、特許請求の範囲に記載された構成以外の構成であっても、特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び、その理は、出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ、出願時に容易に想到することができたことのみを理由として、一律に均等の主張を許さないこととすれば、特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を、上記と異なるものとすることとなる。また、②出願人は、その発明を明細書に記載してこれを一般に開示した上で、特許請求の範囲において、その排他的独占権の範囲を明示すべきものであることからすると、特許請求の範囲については、本来、特許法36条5項、同条6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら、明細書に開示された発明の範囲内で、過不足なくこれを記載すべきである。しかし、先願主義の下においては、出願人は、限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを作成し、これを出願しなければならないことを考慮すれば、出願人に対して、限られた時間内に、将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される場合がある。これに対し、特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者は、当該特許の有効期間中に、特許発明の本質的部分を備えながら、その一部が特許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを、特許請求の範囲と明細書等の記載から容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理は、特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れるものとすると、社会一般の発明への意欲が減殺され、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって、上記に述べた状況等に照らすと、出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても、そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。
 もっとも、このような場合であっても、出願人が、出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的、外形的にみて認められるとき、例えば、出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや、出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには、出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは、第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
 なぜなら、上記のような場合には、特許権者の側において、特許請求の範囲を記載する際に、当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの、すなわち、当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解することができ、そのような理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから、特許権者が後にこれに反して当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは、禁反言の法理に照らして許されないからである。」

※ 出願時に容易想到なもの(出願時同効材)を出願時にクレームアップしなかったことに対する第5要件の適用基準を示している。

 

● 最判平29・3・24 平成28年(受)1242 「マキサカルシトール事件」
【第5要件】
出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。
・・・
 出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。

※ 上記平成27年(ネ)10014の上告審。第5要件について審理され、控訴審の判断を支持している。

 

<地裁判決>
 ここでは、均等侵害が認められた裁判例及び控訴審でも均等侵害が争われかつ判断が示された裁判例を紹介します。
 水色のハイライトがかかったものは均等侵害が認められたケース、黄色のハイライトがかかったものは控訴審の段階で均等侵害が認められたケース、紫色のハイライトがかかったものは均等侵害が認められたが特許が無効であると判断されたケースを表します。

均等論1-1均等論1-2均等論1-3均等論1-4均等論1-5均等論1-6

 

 

<高裁判決>
 ここでは、均等侵害が争われかつ判断が示された裁判例を紹介します。中空ゴルフクラブヘッド事件以降、第1要件からでなく、第2要件から判断されるケースの比重が高まってきている様子が伺えます。
 水色のハイライトがかかったものは控訴審でも均等侵害が認められたケース、黄色のハイライトがかかったものは控訴審の段階で均等侵害が認められたケース、黄緑色のハイライトがかかったものは控訴審の段階ではじめて均等侵害が主張されかつ認められたケースを表します。

均等論2-1均等論2-2均等論2-3均等論2-4均等論2-5均等論2-6均等論2-7均等論2-8均等論2-9均等論2-10