[作成・更新日:2018.1.10]
● 知財高判平21・1・28 平成20年(行ケ)10096 判時2043号117頁、判タ1299号272頁 「回路用接続部材事件」
「 特許法29条2項が定める要件の充足性、すなわち、当業者が、先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは、先行技術から出発して、出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。ところで、出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は、当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから、容易想到性の有無を客観的に判断するためには、当該発明の特徴点を的確に把握すること、すなわち、当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして、容易想到性の判断の過程においては、事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが、そのためには、当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって、その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。さらに、当該発明が容易想到であると判断するためには、先行技術の内容の検討に当たっても、当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく、当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。」
※ キルビー特許事件以後のプロパテントにシフトしようとするトレンドにあって、進歩性の判断にあたっていわゆる「後知恵」を排除すべきことを示したリーディングケース
※ 知財高裁が外国向けにトピック判決として紹介しているケース
● 知財高判平23・1・31 平成22年(行ケ)10075 判時2107号131頁、判タ1345号223頁 「換気扇フィルター事件」
「 当該発明について、当業者が特許法29条1項各号に該当する発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたか否かを判断するに当たっては、従来技術における当該発明に最も近似する発明(「主たる引用発明」)から出発して、これに、主たる引用発明以外の引用発明(「従たる引用発明」)及び技術常識等を総合的に考慮して、当業者において、当該発明における、主たる引用発明と相違する構成(当該発明の特徴的部分)に到達することが容易であったか否かによって判断するのが客観的かつ合理的な手法といえる。当該発明における、主たる引用例と相違する構成(当該発明の構成上の特徴)は、従来技術では解決できなかった課題を解決するために、新たな技術的構成を付加ないし変更するものであるから、容易想到性の有無の判断するに当たっては、当該発明が目的とした解決課題(作用・効果等)を的確に把握した上で、それとの関係で「解決課題の設定が容易であったか」及び「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であったか否か」を総合的に判断することが必要かつ不可欠となる。上記のとおり、当該発明が容易に想到できたか否かは総合的な判断であるから、当該発明が容易であったとするためには、「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」ことのみでは十分ではなく、「解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合がある。すなわち、たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」としても、「解決課題の設定・着眼がユニークであった場合」(例えば、一般には着想しない課題を設定した場合等)には、当然には、当該発明が容易想到であるということはできない。ところで、「解決課題の設定が容易であったこと」についての判断は、着想それ自体の容易性が対象とされるため、事後的・主観的な判断が入りやすいことから、そのような判断を防止するためにも、証拠に基づいた論理的な説明が不可欠となる。また、その前提として、当該発明が目的とした解決課題を正確に把握することは、当該発明の容易想到性の結論を導く上で、とりわけ重要であることはいうまでもない。」
※ 知財高裁が外国向けにトピック判決として紹介しているケース
● 知財高判平23・9・28 平成22年(行ケ)10351 判時2135号101頁、判タ1400号300頁
「 審決において、特許法29条2項が定める要件の充足性の有無、すなわち、当業者が、先行技術に基づいて、出願に係る発明を容易に想到することができたか否かを判断するに当たっては、客観的であり、かつ判断が適切であったかを事後に検証することが可能な手法でされることが求められる。そのため、通常は、先行技術たる特定の発明(主たる引用発明)から出発して、先行技術たる別の発明等(従たる引用発明ないし文献に記載された周知の技術等)を適用することによって、出願に係る発明の主たる引用発明に対する特徴点(主たる引用発明と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準としてされる例が多い。
他方、審決が判断の基礎とした出願に係る発明の「特徴点」は、審決が選択、採用した特定の発明(主たる引用発明)と対比して、どのような技術的な相違があるかを検討した結果として導かれるものであって、絶対的なものではない。発明の「特徴点」は、そのような相対的な性質を有するものであるが、発明は、課題を解決するためにされるものであるから、当該発明の「特徴点」を把握するに当たっては、当該発明が目的とした解決課題及び解決方法という観点から、当該発明と主たる引用発明との相違に着目して、的確に把握することは、必要不可欠といえる。
その上で、容易想到であるか否かを判断するに当たり、「『主たる引用発明』に『従たる引用発明』や『文献に記載された周知の技術』等を適用することによって、前記相違点に係る構成に到達することが容易であった」との立証命題が成立するか否かを検証することが必要となる」