商標の類否判断

 商標法には「商標の類似」なる概念が導入されています。たとえば、商標の登録要件に関する規定の代表格である4条1項11号には、商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものについては、商標登録を受けることができないと規定され、また、いわゆる禁止権に関して規定する37条1号には、指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用は、商標権を侵害するものとみなすと規定されています。
 この「類似」について、商標法上の定義はありません。しかし、下記「氷山印事件」最高裁判決によって示された判断基準が商標の登録要件についての商標の類否判断及び侵害訴訟における商標の類否判断の規範となっています。
 なお、特許庁作成の商標審査基準では、
「1.商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない。
2.商標の類否の判断は、商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層(例えば、専門家、老人、子供、婦人等の違い)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。」
と規定されています(「第3 第4条第1項及び第3項(不登録事由)」「十、第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)」)。

<参考>商標審査基準

 

● 最判昭36・6・27 昭和33年(オ)1104 民集15巻6号1730頁、裁判集民事52号513頁  「橘正宗事件」
「 商標が類似のものであるかどうかは、その商標を或る商品につき使用した場合に、商品の出所について誤認混同を生ずる虞があると認められるものであるかどうかということにより判定すべきものと解するのが相当である。そして、指定商品が類似のものであるかどうかは、原判示のように、商品自体が取引上誤認混同の虞があるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互に誤認混同を生ずる虞がないものであっても、それらの商標は商標法(大正一〇年法律九九号)二条九号にいう類似の商品の商品にあたると解するのが相当である。本件においては「橘正宗」なる商標中「正宗」は清酒を現わす慣用標章と解され、「橘焼酎」なる商標中「焼酎」は普通名詞であるから、右両商標は要部を共通にするものであるのみならず、原審の確定する事実によれば、同一メーカーで清酒と焼酎との製造免許を受けているものが多いというのであるから、いま「橘焼酎」なる商標を使用して焼酎を製造する営業主がある場合に、他方で「橘正宗」なる商標を使用して清酒を製造する営業主があるときは、これらの商品は、いずれも、「橘」じるしの商標を使用して酒類を製造する同一営業主から出たものと一般世人に誤認させる虞があることは明らかであって、「橘焼酎」なる商標が著名のものであるかどうかは右の判断に影響を及ぼうものではない。それ故、「橘焼酎」と「橘正宗」とは類似の商標と認むべきであるのみならず、右両商標の指定商品もまた類似の商品と認むべきである。」

商標の類否判断1

 

最判昭43・2・27 昭和39年(行ツ)110 民集22巻2号399頁、裁判集民事90号479頁 「氷山印事件」
「 商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。
 ところで、本件出願商標は、硝子繊維糸のみを指定商品とし、また商標の構成のうえからも硝子繊維糸以外の商品に使用されるものでないことは明らかである。従って、原判決が、その商標の類否を判定するにあたり、硝子繊維糸の現実の取引状況を取りあげ、その取引では商標の称呼のみによって商標を識別し、ひいて商品の出所を知り品質を認識するようなことはほとんど行なわれないものと認め、このような指定商品に係る商標については、称呼の対比考察を比較的緩かに解しても、商品の出所の誤認混同を生ずるおそれがない旨を判示したのを失当ということはできない。
・・・
 商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。
 本件についてみるに、出願商標は氷山の図形のほか「硝子繊維」、「氷山印」、「日東紡績」の文字を含むものであるのに対し、引用登録商標は単に「しようざん」の文字のみから成る商標であるから、両者が外観を異にすることは明白であり、また後者から氷山を意味するような観念を生ずる余地のないことも疑なく、これらの点における非類似は、原審において上告人も争わないところである。そこで原判決は、上記のような商標の構成から生ずる称呼が、前者は「ひようざんじるし」ないし「ひようざん」、後者は「しようざんじるし」ないし「しようざん」であって、両者の称呼がよし比較的近似するものであるとしても、その外観および観念の差異を考慮すべく、単に両者の抽出された語音を対比して称呼の類否を決定して足れりとすべきでない旨を説示したものと認められる。そして、原判決は、両商標の称呼は近似するとはいえ、なお称呼上の差異は容易に認識しえられるのであるから、「ひ」と「し」の発音が明確に区別されにくい傾向のある一部地域があることその他諸般の事情を考慮しても、硝子繊維糸の前叙のような特殊な取引の実情のもとにおいては、外観および観念が著しく相違するうえ称呼においても右の程度に区別できる両商標をとりちがえて商品の出所の誤認混同を生ずるおそれは考えられず、両者は非類似と解したものと理解することができる。

商標の類否判断2

 

● 最判昭49・4・25 昭和47(行ツ)33 取消集昭和49年443頁 「保土谷化学工業社標事件」
商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指すものであって、単に該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものではないことは明らか」

 

● 最判平4・9・22 平成3年(オ)1805 裁判集民事165号407頁、判時1437号139頁 「大森林事件」
「 商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであって(最高裁昭和三九年(行ツ)第一一〇号同四三年二月二七日第三小法廷判決・民集二二巻二号三九九頁参照)、綿密に観察する限りでは外観、観念、称呼において個別的には類似しない商標であっても、具体的な取引状況いかんによっては類似する場合があり、したがって、外観、観念、称呼についての総合的な類似性の有無も、具体的な取引状況によって異なってくる場合もあることに思いを致すべきである。
 本件についてこれをみるのに、本件商標と被上告人標章とは、使用されている文字が「森」と「林」の二つにおいて一致しており、一致していない「大」と「木」の字は、筆運びによっては紛らわしくなるものであること、被上告人標章は意味を持たない造語にすぎないこと、そして、両者は、いずれも構成する文字からして増毛効果を連想させる樹木を想起させるものであることからすると、全体的に観察し対比してみて、両者は少なくとも外観、観念において紛らわしい関係にあることが明らかであり、取引の状況によっては、需要者が両者を見誤る可能性は否定できず、ひいては両者が類似する関係にあるものと認める余地もあるものといわなければならない。
 ・・・原審は、右のほかに、本件商標が使用される指定商品の想定可能な取引の状況及び被上告人標章が使用された被上告人商品について現に行われている取引の状況を考慮しても、両者は観念において類似するものと認めることはできないとしたのみであり、被上告人商品が訪問販売によっているのかあるいは店頭販売によっているのか、後者であるとしてその展示態様はいかなるものであるのかなどの取引の状況についての具体的な認定のないままに、本件商標と被上告人標章との間の類否を認定判断したものであって、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りないしは理由不備の違法があるというべきである。

※ 昭和39年(行ツ)110「氷山印事件」の判断基準が侵害訴訟においても適用されたリーディングケース

商標の類否判断4

 

<参考(一審:H2.6.22 平成1年(ワ)12784 判時1356号137頁、控訴審:H3.7.30 平成2年(ネ)2408)>
 本件商標は、「大森林」の漢字を楷書体で横書きした文字からなり、被告標章は、「木林森」の漢字を行書体で縦書き又は横書きした文字からなり、外観において類似しない。「大」と「木」、「森林」と「林森」の外観上の相違は明らかで、離隔的、全体的に観察するも、両者は、外観において類似するものとは認められず、需要者層において外観上両者を混同するものと認めることはできない。
 「大森林」は、それ自体熟語であって、「だいしんりん」と一気に読まれるか、仮にそうでないとしても「森林」という熟語に「大」の文字を冠したものとして、せいぜい「だい」「しんりん」と切って読まれるにとどまるのに対し、「木林森」は、それ自体熟語ではなく、また、その中に熟語を含むものでもないから、各文字の有する音又は訓により、一気に読まれるか、切って読まれるかは別として、「もくりんしん」又は「きはやしもり」と読まれ、両者は、称呼においても類似しない。
 本件商標は、「森林」という樹木が密生する場所を意味する熟語の語頭にこれを形容する「大」の文字を冠したものであるから、大きな森林、すなわち、多数の樹木が密生した広大な場所という観念を生じるのに対し、被告標章は、「木」「林」「森」という「木」で構成される文字を「木」の数の少ないものから多いものへと順に組み合わせた語であるから、特定の具体的な観念は生じず、樹木に関した漠然とした観念しか生じず、両者は、観念においても類似しない。

 

● 最判平9・3・11 平成6年(オ)1102 民集51巻3号1055頁、裁判集民事182号43頁 「小僧寿し事件」
「 ・・・(最高裁昭和三九年(行ツ)第一一〇号同四三年二月二七日第三小法廷判決・民集二二巻二号三九九頁参照)。
 これを本件についてみると、次のとおりである。
 本件商標は、…「コゾウ」の称呼を生じ、「商店で使われている年少の男子店員」…等の観念を生ずる。
 他方、…小僧寿しチェーンは、外食産業において上位の売上高を上げ、知名度も高く、…本件商品の製造販売業者として著名となっており、「小僧寿し」は、…小僧寿しチェーンの略称として一般需要者の間で広く認識されていたというのであるから、被上告人標章については、一般需要者が「小僧寿し」なる文字を見、あるいは「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」なる称呼を聞いたときには、…小僧寿しチェーンを直ちに想起するものというべきである。そして、「小僧寿し」は、一般需要者によって一連のものとして称呼されるのが通常であるというのであるから、…「小僧寿し」「KOZOSUSHI」「KOZOSUSI」「KOZO ZUSHI」の各標章は、全体が不可分一体のものとして、「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」の称呼を生じ、…小僧寿しチェーン又はその製造販売に係る本件商品を観念させるものとなっていたと解するのが相当であって、右各標章の「小僧」又は「KOZO」の部分のみから「コゾウ」なる称呼を生ずるということはできず、右部分から「商店で使われている年少の男子店員」を観念させるということもできない。すなわち、被上告人標章一(1)ないし(9)、同二(2)(4)(5)においては、標章全体としてのみ称呼、観念が生ずるものであって、「小僧」又は「KOZO」の部分から出所の識別標識としての称呼、観念が生ずるとはいえないのである。
 そうすると、本件商標と右被上告人標章とを対比すると、外観及び称呼において一部共通する部分があるものの、被上告人標章中の右部分は独立して出所の識別標識たり得ず、右被上告人標章から観念されるものが…小僧寿しチェーン又はその製造販売に係る本件商品であって、右は商品の出所そのものを指し示すものであることからすれば、右被上告人標章の付された本件商品は直ちに小僧寿しチェーンの製造販売に係る商品であると認識することのできる高い識別力を有するものであって、需要者において商品の出所を誤認混同するおそれがあるとは認められないというべきである。したがって、被上告人標章一(1)ないし(9)、同二(2)(4)(5)は、本件商標に類似するものとはいえない。
 また、被上告人標章三(1)ないし(6)は、本件商標と外観において類似せず、また標章自体は「商家で働く人物」を観念させるとしても「商家で使われている年少の男子店員」を観念させるものではなく、「コゾウ」の称呼を生ずるものでもない。このように特定の観念、称呼を生ずることのない図形ないし記号から成る標章であっても、それが著名な人物又は企業を表す標章として長期間にわたって使用され、一般需要者の間で広く認識されるに至った場合には、当該標章から当該人物又は企業が観念され、当該人物又は企業の名称、略称と同一の称呼を生ずることもあり得るものと解される。しかし、そのような場合において、右標章が当該人物又は企業の製造販売に係る商品につき商標として使用されたとしても、標章から生ずる観念及び称呼は、当該商品の出所たる著名な人物又は企業そのものであるから、標章の付された商品は直ちに当該人物又は企業の商品であると認識することができる高い識別力を有するものというべきであり、仮に称呼においてこれと同一ないし類似する商標が他に存在したとしても、需要者において商品の出所を誤認混同するおそれを生ずるものではないというべきである。
 本件において、被上告人標章三(1)ないし(6)は、小僧寿しチェーンの各加盟店において「小僧寿しチェーン」又は「小僧寿し」の名称と共に継続して使用されたことから、右各標章のみを見ても著名な企業グループである小僧寿しチェーンを想起し、右各標章から「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」なる称呼を生ずる余地はあるが、そうであるとしても「商家で使われている年少の男子店員」の観念や「コゾウ」の称呼を生ずるものとは認められず、また右各標章から生ずる観念、称呼が商品の出所たる著名な企業グループである小僧寿しチェーンそのものであることに照らせば、称呼において本件商標と一部共通する部分があるにしても、需要者において商品の出所を誤認混同するおそれを生ずるものではないから、右各標章が本件商標に類似するものとはいえない。

※ 知財高裁が外国向けにトピック判決として紹介しているケース

商標の類否判断3-1

 

商標の類否判断3-2

 

商標の類否判断3-3

 

商標の類否判断3-4

 

<参考(控訴審:H6.3.28 平成4年(ネ)120 民集51巻3号1222頁)>
 本件商標は、「コゾウ」の称呼を生じ、「商店で使われている年少の男子店員」等の観念を生ずる。
 標章一(1)ないし(9)は、自他商品識別機能を有する部分は「小僧」であって、要部は本件商標と外観において類似し、称呼及び観念において同一であるから、本件商標に類似する。
 標章二(1)ないし(5)は、自他商品識別機能を有する部分はいずれも「KOZO」であって、要部の外観は本件商標と類似しないが、その称呼及び観念は同一であるから、本件商標に類似する。
 標章三(1)ないし(6)は、本件商標と外観において類似せず、それ自体は、「商家で働く人物」を観念させるとしても直ちに「商家で使われている年少の男子店員」を観念させるものではなく、「コゾウ」の称呼を生ずるとは限らない。しかし、標章三(1)ないし(6)の各標章の使用態様や経緯、とりわけ店頭看板等に各標章が標章一(1)ないし(9)、同二(1)ないし(5)と併記されて使用されてきたことに照らせば、一般需要者は、標章三(1)ないし(6)を見ただけで「小僧寿し」を観念し「コゾウズシ」と称呼するに至っていたと認めることができる。そうすると、標章三(1)ないし(6)は、本件商標と観念及び称呼が同一であるから、本件商標に類似する。
 しかし、「小僧寿し」は、小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンの略称として著名になっており、商標法二六条一項一号にいう自己の名称の著名な略称に該当し、標章一(1)ないし(9)、同二(2)(4)(5)の使用は、これを普通に用いられる方法で表示するものであるから、本件商標権の禁止的効力は及ばない。
 標章三(1)については、小僧寿し本部が商標登録出願をして、設定登録を受けているものであるところ、同三(2)ないし(6)の各標章はこれに類似するものであるから、小僧寿し本部は、標章三(1)ないし(6)の各標章について指定商品につきこれを専用する権利を有する。そして、小僧寿し本部とのフランチャイズ契約により、標章三(1)ないし(6)の各標章の使用についての許諾を受けているのであるから、本件商標権の禁止的効力は、各標章には及ばない。また、標章三(5)の前掛け部分に横書きされた「小僧寿し」の文字は、小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンの略称を普通に用いられる方法で使用したものであるから、本件商標権を侵害しない。