[作成・更新日:2018.1.10]
しばしば、本件発明は発明として完成されていない未完成発明であるから、特許を受けることができないとか、引用発明は未完成発明であるから、引用文献としての適格性を欠くといった主張が見受けられます。特許法は、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものを「発明」と規定しています(2条1項)が、当業者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていないものは、未完成発明であり、法2条1項の発明に該当しないとされています(下記「獣医用組成物事件」最高裁判決)。
特許庁作成の特許・実用新案審査基準によれば、特許要件として、未完成発明は、平成5年までは、法29条1項柱書違反の類型とされ、現行では、未完成発明という用語は削除され、実質的には、法36条4項1号(実施可能要件)違反(場合によれば、法36条6項1号(サポート要件)違反)の類型とされていますが、いずれによるかは、事案ごとに検討されることになると思います。
また、下記「獣医用組成物事件」最高裁判決が示した「発明の完成」の定義は、共同発明者性が問題となる損害賠償請求訴訟や審決取消訴訟においても、「発明者」を定義するために用いられています。
<発明の完成>
● 最判昭44・1・28 昭和39年(行ツ)92 民集23巻1号54頁、裁判集民事94号33頁 「原子力エネルギー発生装置事件」
「 発明は自然法則の利用に基礎づけられた一定の技術に関する創作的な思想であるが、特許制度の趣旨にかんがみれば、その創作された技術内容は、その技術分野における通常の知識・経験をもつ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体化され、客観化されたものでなければならない。従つて、その技術内容がこの程度に構成されていないものは、発明としては未完成であり、もとより旧特許法一条にいう工業的発明に該当しないものというべきである。」
● 最判昭52・10・13 昭和49年(行ツ)107 民集31巻6号805頁、裁判集民事122号25頁 「獣医用組成物事件」、「薬物製品事件」
「 特許法二条一項は、「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め、「発明」は技術的思想、すなわち技術に関する思想でなければならないとしているが、特許制度の趣旨に照らして考えれば、その技術内容は、当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならないものと解するのが相当であり、技術内容が右の程度にまで構成されていないものは、発明として未完成のものであつて、法二条一項にいう「発明」とはいえないものといわなければならない(当裁判所昭和三九年(行ツ)第九二号同四四年一月二八日第三小法廷判決・民集二三巻一号五四頁参照)。」
● 最判昭61・10・3 昭和61年(オ)454 民集40巻6号1068頁、裁判集民事149号1頁 「ウォーキングビーム式加熱炉事件」
「 発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作であり(特許法二条一項)、一定の技術的課題(目的)の設定、その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成しうるという効果の確認という段階を経て完成されるものであるが、発明が完成したというためには、その技術的手段が、当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し、またこれをもつて足りるものと解するのが相当である(最高裁昭和四九年(行ツ)第一〇七号同五二年一〇月一三日第一小法廷判決・民集三一巻六号八〇五頁参照)。したがつて、物の発明については、その物が現実に製造されあるいはその物を製造するための最終的な製作図面が作成されていることまでは必ずしも必要でなく、その物の具体的構成が設計図等によつて示され、当該技術分野における通常の知識を有する者がこれに基づいて最終的な製作図面を作成しその物を製造することが可能な状態になつていれば、発明としては完成しているというべきである。」
<発明者>
● 知財高判平20・5・29 平成19年(ネ)10037
「 発明は、その技術内容が、当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに、完成したと解すべきであるとされている(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。したがって、発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者、すなわち、当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を指すというべきである。当該発明について、例えば、管理者として、部下の研究者に対して一般的管理をした者や、一般的な助言・指導を与えた者や、補助者として、研究者の指示に従い、単にデータをとりまとめた者又は実験を行った者や、発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えることにより、発明の完成を援助した者又は委託した者等は、発明者には当たらない。もとより、発明者となるためには、一人の者がすべての過程に関与することが必要なわけではなく、共同で関与することでも足りるというべきであるが、複数の者が共同発明者となるためには、課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、一体的・連続的な協力関係の下に、それぞれが重要な貢献をなすことを要するというべきである。」
● 知財高判平20・9・30 平成19年(行ケ)10278
「 発明は、その技術内容が、当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに、完成したと解すべきである(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。したがって、発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者、すなわち、当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すというべきである。」