顕著な事実

[作成・更新日:2018.1.10]

 民事訴訟法179条は、「裁判所において・・・顕著な事実は、証明することを要しない」と規定しています。ここにいう「顕著な事実」とは、「公知の事実」と「裁判所に顕著な事実」をいい、「公知の事実」とは、一般人が疑わない程度に知れ渡っている事実、「裁判所に顕著な事実」とは、裁判所が職務を行うにあたって知った事実で、客観的に明白な事実をいいます。
 相手方は主張するも立証していないと高を括っていると、裁判所が顕著な事実と認定して痛い目に合うこともあるので、反証を怠らない等の注意が必要です。

 

<特許>
● 最判昭59・3・13 昭和54年(行ツ)134 裁判集民事141号339頁
「 審決書に記載すべき理由としては、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は技術水準とされる事実などこれらの者にとつて顕著な事実について判断を示す場合であるなど特段の事由かない限り、前示のような審判における最終的な判断として、その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要するものと解するのが相当である。

 

● 知財高判平17・5・17 平成17年(行ケ)10104
「 木造建築において木製部材間を接続する「かすがい」に見られるように、隣接する部材を金具によって連結して強固な接続を図ることは、建築ないし土木の分野に携わる当業者にとって極めて一般的な手法である(顕著な事実)から、本件発明1及び引用発明1におけるように、平面隣接する硬質発泡プラスチックブロック間の継ぎ目が上下に揃わないように硬質発泡プラスチックを積み重ねていく・・・に際し、連結具によって上下方向を固定するのみならず、同時に、水平方向に隣り合うブロックをも連結するという程度のことは、当業者が必要に応じ当然に試みることにすぎないということができる。」

 

● 知財高判平18・8・31 平成17年(行ケ)10835
「 本件明細書の記載によれば、本件発明により調製されるホトレジスト現像液は、TMAH水溶液や水酸化ナトリウム水溶液であってもよいところ、TMAHや水酸化ナトリウムが強アルカリであって、ほぼ完全に電離することは、当裁判所に顕著な事実である(当庁平成17年(行ケ)第10558号・平成18年4月25日判決参照)。」

 

● 知財高判平19・2・8 平成18年(行ケ)10112
「 歯ブラシのヘッドが応力のない状態で内側に屈曲したものは、本願よりもかなり前から商品として普及していたことは、裁判所にも顕著な事実である。そうすると、本願補正発明においてヘッドが応力のない状態で内側に屈曲しているとの構成は周知のものであり、格別な相違点であるとは到底いえない」

 

● 知財高判平19・11・14 平成18年(行ケ)10504
「 視聴者がいないのに出力され続けるテレビの音声について、テレビを視聴しない者が、これを騒音と認識して音声出力を下げるようなことは、日常経験される顕著な事実といえるから、「社会生活上一般的に行われている技術」についての審決の認定に誤りはない。」

 

● 知財高判平21・9・30 平成21年(行ケ)10041
「 本件補正後の請求項1には、「研磨しうる弾性体」との文言があるが、その定義や説明はなく、本件補正後の請求項1の記載からは、その意味は明らかではない。また、本件補正後の明細書(以下「本願補正明細書」という。)にも、「研磨しうる弾性体」の定義に当たる記載はなく、それに関する説明の記載もない。そこで、出願時(原出願の出願時)の技術常識を参酌してその意味を明らかにする必要がある。
 一般的な辞典には、「研磨」、「弾性」について、次のとおりの記載がある(顕著な事実)。

 

● 知財高判平24・8・30 平成23年(行ケ)10279
「 水門における凍結防止装置の発熱鋼管の取付(施工)は、建設・土木技術分野に属するものであり、建設・土木技術分野においては、水門に限らず、例えば、パイプラインや道路についても、凍結防止装置の発熱鋼管の取付(施工)に類似する技術が存在している(当裁判所に顕著な事実)。そうすると、建設・土木技術分野における通常の知識を有する者(すなわち当業者)であれば、水門の凍結防止装置の発熱鋼管の取付(施工)に関する技術についても、その技術的課題を認識し、技術的な観点からこれに対応することは可能であり、また、相応の創作能力を発揮することができるものと考えられる。」

 

● 知財高判平25・1・28 平成24年(行ケ)10111
「 発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は技術水準とされる事実などこれらの者にとって顕著な事実について判断を示す場合は、その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを必ずしも要しない(最高裁昭和59年3月13日第三小法廷判決・裁判集民事141号339頁参照)ところ、「蒸着により膜形成を行う場合、蒸着させる対象の表面の材質、構造により膜の成長がうまくいくかどうかが左右されること」は、当業者にとって常識的な事項であるから、この点について判断を示す場合は、その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することは必ずしも必要ではない。」

 

● 知財高判平25・3・19 平成24年(行ケ)10276
「 一度に単一の食材をたくさん食べるよりも多種多様な食材を一緒に食べた方が栄養の吸収や体調改善等において相乗効果が期待できてよいことは、日常の生活習慣からも容易に理解できる顕著な事実である。したがって、当業者ならば、両者の配合禁忌により効果が損なわれることを懸念するよりも、両者の組合せによる相乗効果を積極的に期待したはずである。」

 

<商標>
● 知財高判平18・9・28 平成18年(ネ)10043
「 時代の変遷とともに洋服その他の被服と運動用特殊衣服との境界が不明確となる場合があることは否定できない。本件に関係するものについても、サッカーのサポーターが選手用のゲームシャツを着て応援したり(裁判所に顕著な事実)

 

● 大阪地判平20・10・2 平成19年(ワ)7660 判時2038号132頁 、判タ1321号203頁
「 平成10年11月11日発行の広辞苑第5版(甲17)には「招福」及び「招福巻」のいずれの語も収録されておらず、また、「招福巻」は、同第5版のみならず、平成20年1月11日発行の同第6版にも収録されていない・・・(広辞苑第6版の登載内容は当裁判所に顕著な事実)。
 ・・・全国のスーパーマーケットやすし店等において、節分用の巻きずしの名称として「招福巻」を含む商品名が用いられている例が多数あるからといって、このことから直ちに、「招福巻」が、節分用の巻きずしの普通名称(商標法26条1項2号)になったものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。」

 

● 知財高判平24・10・30 平成24年(行ケ)10125 判時2184号130頁、判タ1406号266頁
「 我が国には、「ダイワ」、「大和」を冠した企業名が多数存在する(裁判所に顕著な事実)から、取引者、需要者は、「DAIWA」の文字部分を企業名に関する表示として認識し、同部分からそのような企業名としての観念を生じるものと認められる。したがって、本願商標の「DAIWA」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認めることはできない。」

 

● 知財高判平28・10・27 平成28年(行ケ)10090
「 商品の製造、販売を行う企業においては、その企業自体の営業標識となるロゴやマーク(いわゆるハウスマーク)を用いるほかに、商品のブランド名を表す商標を用いる場合があり、その中でも、シリーズ商品や一定のカテゴリーに属する複数の商品群に統一的な商標(いわゆるファミリーマーク)を使用した上で、その中の個々の商品について、ファミリーマークに付加して個別の商品を識別するための標章(いわゆるペットマーク)を使用することが一般的に行われており、また、これらのマークを組み合わせて使用することも一般的に行われている(当裁判所に顕著な事実)。」