特許が付与される発明

[作成・更新日:2018.1.10]

1.特許庁における実体審査のフロー

 特許出願をし、出願と同時又は出願から3年以内に特許庁に対して審査請求をしますと、その特許出願は、平均で約10ヶ月後(特許行政年次報告書2016年版の2015年のデータ)に実体審査にかかります。
 実体審査は、大まかには、以下の流れとなっており、全てのハードルをクリアすると特許が付与される仕組みとなっています。

特許が付与される発明1

 

2.発明成立性

注)以下、発明成立性の要件を説明しますが、一般的にみなさんが考えられるアイデアで発明成立性を充たさないものは極めて数が少ないです。したがって、本項は読み飛ばして頂いても結構です。その場合、「3.新規性」からお読みください。

(1)「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」をいいます(特許法第2条)。

(2)また、「発明」は、「産業上利用することができる発明」でなければなりません(特許法第29条柱書)。

(1)に該当しないもの:
① 自然法則そのもの
ex エネルギー保存の法則、万有引力の法則

② 単なる発見

③ 自然法則に反するもの
ex いわゆる「永久機関」

④ 自然法則を利用していないもの
・経済法則

・人為的な取決め
ex 徴収金額のうち十円未満を四捨五入して電気料金を徴収する集金方法
ex 原油が高価で清水の安価な地域から清水入りコンテナを船倉内に多数積載して出航し、清水が高価で原油の安価な地域へ輸送し、コンテナの陸揚げ後船倉内に原油を積み込み前記出航地へ帰航するようにしたコンテナ船の運航方法
ex 予め任意数の電柱を以ってA組とし、同様に同数の電柱によりなるB組、C組、D組等所要数の組をつくり、これらの電柱にそれぞれ同一の拘止具を取付けて広告板を提示し得るようにし、電柱の各組毎に一定期間づつ順次にそれぞれ異なる複数組の広告板を循回掲示することを特徴とする電柱広告方法

・数学上の公式

⑤ 技術的思想でないもの
・技能(個人の熟練によって到達しうるものであって、知識として第三者に伝達できる客観性が欠如しているもの)
ex フォークボールの投球方法

・情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するものであって、情報の提示を主たる目的とするもの)
ex マニュアル、画像データ、リスト表示など

 但し、情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるものは、情報の単なる提示にあたらない。
ex 文字、数字、記号からなる情報を凸状に記録したカード

・単なる美的創造物
ex 絵画、彫刻など

⑥ ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されていない(=具体的な実現性が無い)ソフトウェア関連発明
ex 「文書データを入力する入力手段、入力された文書データを処理する処理手段、処理された文書データを出力する出力手段を備えたコンピュータにおいて、上記処理手段によって入力された文書の要約を作成するコンピュータ」
※ いわゆる「ビジネスモデル特許」は、ソフトウェア関連発明に含まれますが、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されていないと判断される傾向が強いため、かなり特許されにくいのが実情です。

(2)に該当しないもの:
① 人間を手術、治療又は診断する方法

② 発明が業として利用できない発明
ex 喫煙方法のように、個人的にのみ利用される発明
ex 学術的、実験的にのみ利用される発明

③ 実際上、明らかに実施できない発明
ex オゾン層の減少に伴う紫外線の増加を防ぐために、地球表面全体を紫外線吸収フィルムで覆う方法

3.新規性

(1)発明は新規なものでなければなりません。より詳しくは、A.既に日本国内又は外国において公然知られているもの、B.既に日本国内又は外国において公然実施されているもの、C.既に日本国内又は外国において刊行物に記載されたもの又はインターネットで閲覧可能なもの、(これらをまとめて「公知技術」という)と同じ発明であれば、特許は取れません(特許法第29条第1項)。

(2)新規性有無の判断の基本的な考え方
 発明が上記A,B又はC(公知技術)と同じ内容であれば、新規性は否定されますが、発明と上記A,B又はC(公知技術)との間に一つでも内容の相違点があれば、原則として新規性は認められます。

4.進歩性

(1)発明は進歩的なものでなければならない。より詳しくは、上記A,B又はC(公知技術)との間に相違点はあるものの、上記A,B又はC(公知技術)に基づいて当業者(当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者)が容易に思いつくことができる発明であれば、特許は取れません(特許法第29条第2項)。

(2)進歩性有無の判断の基本的な考え方
 以下の場合は、原則として進歩性が否定されます。

・最適材料の選択・設計変更
 公知材料の中からの最適材料の選択や、公知技術に対する設計変更であって、当業者の創作活動の範囲内である発明

・技術の単なる寄せ集め
 発明を構成する各要素が機能的に関連しておらず、要素の単なる寄せ集めに過ぎない発明

・技術の予測可能な組み合わせ
 発明を構成する各要素が機能的に関連するものの、各要素が互いに組み合わせられることが当業者にとって想定の範囲内である発明

(3)「設計変更」であるか否かの見極め
 変更しようとしている要素が広い概念のままである場合は、基本的には、「設計変更」であり、進歩性は否定されます。
 変更しようとしている要素が、広い概念から絞り込まれた概念、あるいは、付加的な要素を伴う概念であれば、「設計変更」でなく、進歩性が認められる可能性があります。

広い概念から絞り込まれた概念のイメージ

特許が付与される発明2

 

付加的な要素を伴う概念のイメージ

特許が付与される発明3

 

(4)「技術の単なる寄せ集め」

特許が付与される発明4

 

(5)「技術の予測可能な組み合わせ」であるか否かの見極め
 互いに組み合わせようとする要素の全てが広い概念のままである場合は、基本的には、「技術の予測可能な組み合わせ」であり、進歩性は否定されます。
 互いに組み合わせようとする要素の少なくとも一部が広い概念から絞り込まれた概念であれば、「技術の予測可能な組み合わせ」でなく、進歩性が認められる可能性があります。

広い概念から絞り込まれた概念のイメージ

特許が付与される発明5

 

(6)まとめ

 「1ステップの創作」では進歩性が得られにくいです。

 「2ステップの創作」で進歩性が認められる可能性があります。

 但し、「技術の単なる寄せ集め」のような「並列的な2ステップの創作」ではなく、「直列的な2ステップの創作」が要求されます。

5.特許性(新規性+進歩性)を高める発明創作のコツ

 以下の3つのポイントに気を付けて発明を創作するだけで、その発明を特許出願したときに特許にできる確率が高まります。

(1)より詳しく、より具体的にアイデアを考えること
(垂直展開型創作)

特許が付与される発明6

 

(2)同じ目的・機能の範囲でできるだけいろんなパターンを考えること
(水平展開型創作)

特許が付与される発明7

 

 さらには、上記(1),(2)の両方を意識してアイデアを考えると・・・

特許が付与される発明8

 

(3)物のアイデアだけでなく、その物に関する方法のアイデアで考えること
 物の構造はありふれているために進歩性はないが、その物の製造方法であったり、その物の用途であったり、その物の使用方法であったりすると、進歩性が認められることが多々あります。