[作成・更新日:2018.1.10]
● 知財高判平17・10・19 平成17年(行ケ)10013
「 特許法36条6項1号の記載要件は、特許請求の範囲に対して発明の詳細な説明による裏付けがあるか否かという問題であり、同条4項の記載要件の議論とは、いわば表裏一体の問題ということができる。」
● 知財高判平17・11・11 平成17年(行ケ)10042 判時1911号48頁、判タ1192号164頁 「偏光フィルム事件」
「 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、特許出願人・・・又は特許権者・・・が証明責任を負うと解するのが相当である。・・・
・・・
本件発明は、特性値を表す二つの技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を構成要件とするものであり、いわゆるパラメータ発明に関するものであるところ、このような発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である。
・・・
・・・発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示せず、本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。」
※ サポート要件を実施可能要件と同様、「実質的」に判断したケース
※ 知財高裁が外国向けにトピック判決として紹介しているケース
● 知財高判平22・1・28 平成21年(行ケ)10033 判時2073号105頁、判タ1334号152頁 「フリバンセリン事件」
「 法36条6項1号の規定は、「特許請求の範囲」の記載に関してその要件を定めた規定であること、及び、発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除するために設けられた規定であることに照らすならば、同号の要件の適合性を判断する前提としての「発明の詳細な説明」の開示内容の理解の在り方は、上記の点を判断するのに必要かつ合理的な方法によるべきである。他方、「発明の詳細な説明」の記載に関しては、法36条4項1号が、独立して「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の・・・技術上の意義を理解するために必要な事項」及び「(発明の)実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載した」との要件を定めているので、同項所定の要件への適合性を欠く場合は、そのこと自体で、その出願は拒絶理由を有し、又は、独立の無効理由(特許法123条1項4号)となる筋合いである。そうであるところ、法36条6項1号の規定の解釈に当たり、「発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除する」という同号の趣旨から離れて、法36条4項1号の要件適合性を判断するのと全く同様の手法によって解釈、判断することは、同一事項を二重に判断することになりかねない。仮に、発明の詳細な説明の記載が法36条4項1号所定の要件を欠く場合に、常に同条6項1号の要件を欠くという関係に立つような解釈を許容するとしたならば、同条4項1号の規定を、同条6項1号のほかに別個独立の特許要件として設けた存在意義が失われることになる。
したがって、法36条6項1号の規定の解釈に当たっては、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明の記載の範囲と対比して、前者の範囲が後者の範囲を超えているか否かを必要かつ合目的的な解釈手法によって判断すれば足り、例えば、特許請求の範囲が特異な形式で記載されているため、法36条6項1号の判断の前提として、「発明の詳細な説明」を上記のような手法により解釈しない限り、特許制度の趣旨に著しく反するなど特段の事情のある場合はさておき、そのような事情がない限りは、同条4項1号の要件適合性を判断するのと全く同様の手法によって解釈、判断することは許されないというべきである。
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・・・知財高裁大合議部判決の判示は、〈1〉「特許請求の範囲」が、複数のパラメータで特定された記載であり、その解釈が争点となっていること、〈2〉「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」の記載による開示内容と対比し、「発明の詳細な説明」に記載、開示された技術内容を超えているかどうかが争点とされた事案においてされたものである。これに対し、本件は、〈1〉「特許請求の範囲」が特異な形式で記載されたがために、その技術的範囲についての解釈に疑義があると審決において判断された事案ではなく、また、〈2〉「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比して、前者の範囲が後者の範囲を超えていると審決において判断された事案でもない。知財高裁大合議部判決と本件とは、上記各点において、その前提を異にする。」
※ 前提が異なるとして平成17年(行ケ)10042の判示内容の適用を否定したケース
※ 知財高裁が外国向けにトピック判決として紹介しているケース