他人の名称等を含む商標(4条1項8号)

 商標法4条1項8号は、人格的利益の保護の観点から、商標登録を受けることができないものとして、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」を規定しています。この規定により、自分の会社名(商号)あるいは自分の会社の略称(商号から「株式会社」等の表記を除いたもの)を商標登録しようとしても、それが他人の会社名あるいは他人の著名な略称でもある場合は、その他人の承諾がない限り、商標登録できないということになります。
 従前は、出願人と他人との間に競合関係はないとか、いずれが著名周知であるといった事情がある場合は、他人の人格的利益は侵害されないとして、商標登録は可能でしたが、下記知財高裁判決が出て以降は、なかなかそのような主張は通りにくくなっています。

<参考>商標審査基準

 

● 最判昭57・11・12 昭和57年(行ツ)15 民集36巻11号2233頁
「 株式会社の商号は商標法四条一項八号にいう「他人の名称」に該当し、株式会社の商号から株式会社なる文字を除いた部分は同号にいう「他人の名称の略称」に該当するものと解すべきであって、登録を受けようとする商標が他人たる株式会社の商号から株式会社なる文字を除いた略称を含むものである場合には、その商標は、右略称が他人たる株式会社を表示するものとして「著名」であるときに限り登録を受けることができないものと解するのが相当である。」

 

● 最判平16・6・8 平成15年(行ヒ)265 裁判集民事214号373頁、判時1867号108頁
「 8号は、その括弧書以外の部分(8号本文)に列挙された他人の肖像又は他人の氏名、名称、その著名な略称等を含む商標は、括弧書にいう当該他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないとする規定である。その趣旨は、肖像、氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解される。したがって、8号本文に該当する商標につき商標登録を受けようとする者は、他人の人格的利益を害することがないよう、自らの責任において当該他人の承諾を確保しておくべきものである。
 また、・・・8号及び3項の上記趣旨にかんがみると、3項にいう出願時に8号に該当しない商標とは、出願時に8号本文に該当しない商標をいうと解すべきものであって、出願時において8号本文に該当するが8号括弧書の承諾があることにより8号に該当しないとされる商標については、3項の規定の適用はないというべきである。したがって、出願時に8号本文に該当する商標について商標登録を受けるためには、査定時において8号括弧書の承諾があることを要するのであり、出願時に上記承諾があったとしても、査定時にこれを欠くときは、商標登録を受けることができないと解するのが相当である。」

 

● 最判平17・7・22 平成16年(行ヒ)343 裁判集民事217号595頁、判時1908号164頁
「 商標法4条1項は、商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが、需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号、15号等の規定とは別に、8号の規定が定められていることからみると、8号が、他人の肖像又は他人の氏名、名称、著名な略称等を含む商標は、その他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないと規定した趣旨は、人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても、一般に氏名、名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には、本人の氏名、名称と同様に保護に値すると考えられる。
 そうすると、人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても、常に、問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる。
 本件においては、・・・上告人は、上告人略称を教育及びこれに関連する役務に長期間にわたり使用し続け、その間、書籍、新聞等で度々取り上げられており、上告人略称は、教育関係者を始めとする知識人の間で、よく知られているというのである。これによれば、上告人略称は、上告人を指し示すものとして一般に受け入れられていたと解する余地もあるということができる。そうであるとすれば、上告人略称が本件商標の指定役務の需要者である学生等の間で広く認識されていないことを主たる理由として本件商標登録が8号の規定に違反するものではないとした原審の判断には、8号の規定の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。」

 

● 知財高判平20・9・17 平成20年(行ケ)10142
「 8号の立法趣旨が、氏名、名称等を、承諾なく商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあるものとしても、同号の規定上、他人の氏名、名称等を含む商標が、当該他人の人格的利益を侵害するおそれのある具体的な事情が存在することは、同号適用の要件とされているものではない。すなわち、同号は、他人の肖像、氏名、名称を含む商標、並びに他人の著名な雅号、芸名、筆名及び氏名、名称、雅号、芸名、筆名の著名な略称を含む商標については、そのこと自体によって、上記人格的利益の侵害のおそれを認め、商標登録を受けることができないとしているものと解される」

 

● 知財高判平21・2・26 平成20年(行ケ)10309
「 以上のような諸点を考慮すると、他人の名称を含む商標については、他人の承諾を得ているものを除いては、商標登録を受けることができないというべきであって、出願人と他人との間で事業内容が競合するかとか、いずれが著名あるいは周知であるといったことは、考慮する必要がないというべきである。」

 

● 知財高判平21・5・26 平成21年(行ケ)10005
「 法4条1項8号は、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称」を含む商標については、括弧書きによる「その他人の承諾を得ているもの」を除き、商標登録を受けることができないと規定するにとどまる・・・同号の規定上、人格的利益の侵害のおそれがあることなどのその他の要件を加味して、その適否を考える余地はないというべきである。
 要するに、同号は、出願人と他人との間での商品又は役務の出所の混同のおそれの有無、いずれかが周知著名であるということなどは考慮せず、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称」を含む商標をもって商標登録を受けることは、そのこと自体によって、その氏名、名称等を有する他人の人格的利益の保護を害するおそれがあるものとみなし、その他人の承諾を得ている場合を除き、商標登録を受けることができないとする趣旨に解されるべきものなのである。」