[作成・更新日:2018.1.10]
周知技術の適用による相違点の容易想到性が争点となる場合、容易想到であると主張する側は、文献の記載事項をできるだけ捨象して周知技術を上位概念化しようとし、また、周知技術の適用に特段の動機付けは必要ないと主張し、他方、容易想到でないと主張する側は、そのような周知技術の上位概念化は認められず、また、周知技術といえどもそれ相応の動機付けは必要であると主張することは、最も典型的な攻撃防御方法の一つとなっています。
プロパテントの観点から、周知技術であっても適用の検討は慎重に行われるようになってきていますので、容易想到であると主張する側にとっては、より適切な周知例(主引用発明との親和性がよい周知例)の文献サーチが求められるようになってきています。
<周知技術>
● 東京高判昭50・7・30 昭和48年(行ケ)101 無体集7巻2号260頁
「 周知技術というのは、その技術分野において、一般的に知られている技術であつて、例えば、これに関し相当多数の公知文献が存在し、又は、業界に知れわたり、もしくは、よく用いられていることを要すると解するのが相当である」
● 東京高判平13・6・28 平成12年(行ケ)342
「 原告は、わずか二つの、しかも、本願発明の出願日のわずか6か月前に出願公開された公開公報(甲第6、第7号証刊行物)に記載されているにすぎない技術を周知技術とすることはできない旨主張するが、周知技術であるか否かは、単に公開公報の数や公開後の期間のみによるものではなく、技術分野の技術進歩の速度にもよることは当然のことである。そして、上記公開公報の技術分野である電子写真技術は、技術革新が速く、電子写真技術に関する公開公報は、電子写真技術を扱う業界において遅滞なく知れ渡る性質のものであることから、審決は上記二つの公開公報に記載されている技術を周知技術としたものであって、審決に誤りはない。」
● 東京高判平13・12・27 平成11年(行ケ)214
「 原告は、ある事項がわずか1件の刊行物に記載されているというだけでそれを周知と認めることはできない、と主張する。しかしながら、ある技術が周知であるか否かは、単にその技術を記載した刊行物の数のみによって決まるものではなく、当該事項の属する技術分野、当該刊行物の性質、頒布時期等も考慮されるべきである。本件においては、周知とされた上記事項の属する技術分野を前提に、甲第6号証刊行物が本件出願日(平成2年5月16日)の約8年前であるに昭和57年に頒布された特許文献であることを考慮すれば、本件出願日当時、同事項は周知であった、と認めることができるものというべきである。」
● 東京高判平16・1・27 平成14年(行ケ)546
「 周知事実とは、当業者が熟知している事項であるため、本来、審決においてその認定根拠を示すまでもないもののことであるから、審決の挙げた文献数の多少によって、周知であるとしてよいかどうかが定まるという性質のものではない。二つの文献を挙げるだけで周知とすることはできない、との原告の主張は、それ自体失当である。」
● 知財高判平23・3・8 平成22年(行ケ)10273 判タ1375号195頁 「アルミ箔事件」
「 技術が、当業者にとっての慣用技術等にすぎないような場合は、必ずしも動機付け等が示されることは要しない」
● 知財高判平23・9・28 平成22年(行ケ)10351 判時2135号101頁、判タ1400号300頁
「 もっとも、「従たる引用発明等」は、出願前に公知でありさえすれば足りるのであって、周知であることまでが求められるものではない。しかし、実務上、特定の技術が周知であるとすることにより、「主たる引用発明に、特定の技術を適用して、前記相違点に係る構成に到達することが容易である」との立証命題についての検証を省く事例も散見される。特定の技術が「周知である」ということは、上記の立証命題の成否に関する判断過程において、特定の文献に記載、開示された技術内容を上位概念化したり、抽象化したりすることを許容することを意味するものではなく、また、特定の文献に開示された周知技術の示す具体的な解決課題及び解決方法を捨象して結論を導くことを、当然に許容することを意味するものでもない。」
● 知財高判平24・1・31 平成23年(行ケ)10121 判時2168号124頁
「 当業者の技術常識ないし周知技術についても、主張、立証をすることなく当然の前提とされるものではなく、裁判手続(審査、審判手続も含む。)において、証明されることにより、初めて判断の基礎とされる。他方、当業者の技術常識ないし周知技術は、必ずしも、常に特定の引用文献に記載されているわけではないため、立証に困難を伴う場合は、少なくない。しかし、当業者の技術常識ないし周知技術の主張、立証に当たっては、そのような困難な実情が存在するからといって、〈1〉当業者の技術常識ないし周知技術の認定、確定に当たって、特定の引用文献の具体的な記載から離れて、抽象化、一般化ないし上位概念化をすることが、当然に許容されるわけではなく、また、〈2〉特定の公知文献に記載されている公知技術について、主張、立証を尽くすことなく、当業者の技術常識ないし周知技術であるかのように扱うことが、当然に許容されるわけではなく、さらに、〈3〉主引用発明に副引用発明を組み合わせることによって、当該発明の相違点に係る技術的構成に到達することが容易であるか否という上記の判断構造を省略して、容易であるとの結論を導くことが、当然に許容されるわけではないことはいうまでもない。」
<周知の課題>
● 東京高判平14・7・23 平成12年(行ケ)388
「 このような普遍的ないし周知の課題が存在する状況においては、刊行物1、2に訂正発明の課題が提示されていると否とにかかわりなく、刊行物1の発明に刊行物2の構成を適用する動機付けは存在するといってよい。」
● 知財高判平23・7・7 平成22年(行ケ)10240
「 引用発明1は、前記周知技術と同様にスイッチング素子を用いた電源用電子回路に係る技術であるから、引用発明1においても上記周知の課題が存在することは、当業者であれば当然に予測できることである。したがって、引用発明1において、当該課題を解決するために、引用例2に開示されている上記回路構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものということができる。」
● 知財高判平24・8・27 平成23年(行ケ)10346
「 かしめ部において接続強度を高めること、及び、かしめ部において接続の安定性を高めることは、周知の課題であって、引用発明においても内在する自明の課題であるから、引用発明において、上記の課題を解決するために、上記の周知の事項を適用することに格別の困難性はない。」