知的財産高等裁判所HPにて『特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁,平成26~27年)』が公表されました。
これは、内閣に設置されている知的財産戦略本部が策定した『知的財産推進計画2015』の
・特許権侵害訴訟における権利者側の勝訴率が低い。
・認められる損害賠償額が十分でない。
・権利の安定性が十分でない。
との問題認識、並びに
・知財紛争処理に関する情報のうち、例えば、経過、和解の事実等も含めた終結結果、知財訴訟に関するより詳細な統計情報等の訴訟に関連する情報について、当事者への配慮やユーザーニーズ等を考慮した上で、有意義な情報の国内外への情報発信の一層の強化を強く期待する。
との要請に答えたものと思われます。
勝訴率については、『知的財産推進計画2015』で述べられているとおり、特許権侵害訴訟では、訴訟上又は訴訟外の和解で終了する事件も相当の割合で存在するため、判決上の原告勝訴率は、訴訟全体における権利実現の割合を示すものではないことに留意する必要であり、実際、裁判所もそのような認識をしているところだと思いますが、『統計』から引用した下記①(②+③)のデータによれば、判決と和解を含め、実質的な勝訴率は、「認容」(14%)、「差止給付条項・金銭給付条項あり」(9%)、「差止給付条項のみあり」(4%)、「金銭給付条項のみあり」(16%)を合わせて40%以上にもなるといえます。裁判所がこのようなデータを公表したことは非常に興味深いです。
損害賠償額については、『統計』から引用した下記④,⑤のデータによれば、億単位のものも少なからずあり、たしかに以前に比べると、高額な認容額が増えてきていますが、まだまだ低額な認容額のものも多いのが実情であると思います。
権利の安定性については、『統計』から引用した下記⑥のデータによれば、無効の抗弁によって請求が棄却されるのは、20%にも満たないことから、権利の安定性が十分でないとの批判は当たらないといったところなのでしょうか。