[作成・更新日:2018.1.10]
1.特許を早期に取得する必要性
『特許取得の流れ』で説明していますが、審査請求してから特許庁の審査官が実体審査に着手するまでに平均で約10ヶ月かかります(特許行政年次報告書2016年版の2015年のデータ)。実体審査の結果、約8~9割の特許出願が一回は拒絶理由通知を受けますが、それの応答期間として60日が設定され、その間に意見書(補正書)を提出してから審査官が改めて実体審査に着手するまでに平均で約2ヶ月かかります。意見書における主張が認められて特許査定がおりると、特許料を納付することで設定登録がなされて特許が付与されます(特許権が発生します)が、この間も約1ヶ月の期間を要します。要するに、出願と同時に審査請求をしたとしても、出願から特許が付与されるまでに平均で約15ヶ月かかります。通常、審査請求は、出願が公開された後、あるいは審査請求期限(出願から3年)間際になされることが多いので、そうなりますと、出願から特許が付与されるまでに平均で約35ヶ月あるいは約50ヶ月かかることになります。
時間がかかることがなにもすべからく悪いわけではありません。特許出願中の特許請求の範囲の広さは、最終的に特許が付与される時点での特許請求の範囲の広さよりも広いのが一般的であるため、特許出願中であることの第三者抑止力はそれなりのものがあります。ちなみに、特許出願中の状態に早く終止符を打ちたいために、第三者も審査請求できるようになっており、実際、有益な出願である場合、そういった第三者によって審査請求されるケースが少なからず見受けられます。
また、特許がおりるわけはないと高をくくった第三者がその特許出願の内容に抵触していることを知りつつ事業を始めた場合、時間が経過すればするほど、事業が定着化、拡大化していきますので、時期を遅くして特許を取得した場合のその特許権の行使(差し止め請求)はその第三者にとって非常に脅威となります。この場合、和解するにしても、高いロイヤリティーを要求できる等、いい条件を引き出しやすくなります。
しかしながら、商品又はその事業の絶対的地位を確保したい場合、第三者の追随を許すわけにはいきませんし、実際に抵触商品が市場に出回っている場合はできる早い段階で排除する必要があります。そういった場合に、特許を早期に取得する必要があるのです。
2.早期審査
ファーストオフィスアクション(審査請求してから一回目の実体審査)の期間(いわゆる一次審査の待ち時間)を短縮するための制度です。早期審査を利用すれば、一次審査の待ち時間が平均で約10ヶ月から約2ヶ月に短縮されます(特許行政年次報告書2016年版の2015年のデータ)。
詳しくは、特許庁HPの『特許』の『審査に関する情報』における『早期審査について』を確認下さい。
なお、早期審査は、上述したとおり、一次審査の待ち時間を短縮するための制度です。したがって、拒絶理由が通知された後、意見書(補正書)を提出してから改めて実体審査されるまでの期間(いわゆる二次審査の待ち時間)をも短縮するものではありません。ちなみに、『スーパー早期審査』であれば、二次審査待ちの待ち時間も短縮されます。
(1)早期審査の対象出願
主なケースとして、下記①~③のいずれかであれば、対象となります。
① 実施関連出願
実際に出願の内容を事業として実施している場合のみならず、2年以内に実施をする予定がある場合も該当します。
② 外国関連出願
外国にも出願している場合やPCT出願している場合が該当します。
③ 中小企業、個人、大学、公的研究機関等の出願
中小企業基本法等に定める中小企業が単独あるいは第三者と共同で出願している場合、個人が単独あるいは第三者と共同で出願している場合等が該当します。
(2)早期審査・早期審理に必要な手続
早期審査を申請するには、「早期審査に関する事情説明書」を特許庁に提出する必要です。事情説明書には、先行技術文献の開示及び対比説明を記載しますが、条件によってはこれらの記載を省略することができます。
3.審査官との面接、電話・ファクシミリ対応
拒絶理由が通知された場合、拒絶理由が新規性違反や進歩性違反であれば、補正案の提示、引例との相違点の説明、といった特許出願に係る技術説明を審査官の面前で行なうことで、審査官の理解を早めることができ、ひいては、特許査定をより早く受けることができるチャンスが増えます。記載不備の拒絶理由の場合も同様です。記載不備の拒絶理由を解消するための補正案の提示であれば、東京の特許庁に出向いて審査官と面接するよりは、審査官との電話・ファクシミリ対応が経済的です。面接は、拒絶理由が通知された後だけでなく、一次審査待ちの段階でも可能です。
詳しくは、特許庁HPの『特許』の『審査に関する情報』における『面接審査について』を確認下さい。
4.自発補正
審査官は、特許請求の範囲に記載された各請求項を一つ一つ審査してくれるため、より多くの請求項を特許請求の範囲に記載しておけば、より精度良く特許可否レベルを見極められるようになります。請求項の数が少ないと、特許可否レベルを見極めにくいので、一回目の拒絶理由通知を受けたことに対し、意見書及び補正書を提出しても、再び拒絶理由が通知されることはよくあることです。もちろん、特許庁との往復回数が増えると、特許の取得が遅れます。
しかしながら、出願時により多くの請求項を作成しておくことは、経済的ではないかもしれません。また、出願時と審査請求時とにタイムラグがあるため、将来的な状況を予測して将来的に必要となる全ての請求項を出願時に作成しておくことは困難です。ということで、出願後の審査官が実体審査に着手する前の時点(早期審査を申請する場合は一般的にはその時点)で、特許請求の範囲を自発的に補正(必要な請求項を増やす補正)し、補正書を特許庁に提出するという方法が有効です。