[作成・更新日:2018.1.10]
「数値限定の臨界的意義<1>」で紹介した裁判例と異なり、数値限定とは違う部分で非容易想到である等の理由により、数値限定発明ではあるものの、その臨界的意義は必要ではないと判示した裁判例を紹介します。
● 東京高判昭60・2・27 昭和53年(行ケ)169
「 数値限定以外の点でも新規性を認めることのできる発明については、特許請求の範囲を数値で限定した理由としては、必ずしも技術的なものに限らず、例えば、その数値外のところでは実験を行っていないとか、その数値を超えると経済性が伴わない等のことでも右限定の理由となりうるものであり、右の限定をするか否かは結局出願人の意思によって選択すべきものというべきである。」
● 東京高判昭S62・7・21 昭和59年(行ケ)180
「 一般に、明細書に発明の数値限定の下限以下及び上限以上の実験結果について記載されておらず、明細書上、数値限定の臨界的な意味が存することが判然としなくとも、このことから直ちに当該発明の数値特定の技術的意義を否定し去ることはできず、むしろ、発明がその構成要件における数値の特定ないし上限値及び下限値の設定において公知技術と相違し、当該発明と公知技術の相異なる当該数値の特定がそれぞれ別異の目的を達成するための技術手段としての意義を有し、しかも、当該発明がその数値の特定に基づいて公知技術とは明らかに異なる作用効果を奏するものであることが認められるときは、当該発明の数値特定の困難性を肯認することは妨げられないというべきである。」
● 東京高判平13・2・22 平成12年(行ケ)280
「 当業者が、相違点に係る構成に容易に想到することができたとすることができないことは、前示のとおりである。そうである以上、仮に、本件発明の特許請求の範囲の数値限定に臨界的意義がないとしても、そのことをもって、本件発明1、2を、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」
● 知財高判平17・6・22 平成17年(行ケ)10189
「 本件発明1は、長期間の駆動に伴う発光輝度の減衰が小さく、耐久性に優れる有機EL素子を提供するに際してのハロゲン化合物濃度の許容限度として、濃度500ppmを設定したものというべきであって、当該数値の内外において効果が顕著に異なるという、いわゆる臨界的意義を有する数値として500ppmの濃度を開示した発明ということはできない。」
● 知財高判平20・3・27 平成19年(行ケ)10147
「 本件特許発明の内部応力の範囲(「0±40kg/mm 」)は、その上限値又は下限値に格別の臨界的意義があるわけではなく、ワイヤの表面層の内部応力の絶対値が小さい数値を規定したものと理解される。」
● 知財高判平21・9・28 平成20年(行ケ)10484
「 本件発明1の特徴的な部分は、「Snを主として、これに、CuとNiを加える」ことによって「金属間化合物の発生が抑制され、流動性が向上した」ことにあり、CuとNiの数値限定は、望ましい数値範囲を示したものにすぎないから、上記で述べたような意味において具体的な測定結果をもって裏付けられている必要はないというべきである。」
● 知財高判平22・10・12 平成21年(行ケ)10330
「 本願補正発明は、・・・点で、既に引用発明及び引用例2に開示された手段に基づき容易に想到し得たものとはいえず、本願明細書に本願補正発明の数値限定の技術的意義を明らかにする記載がなければ引用発明及び引用例2に開示された手段に対して進歩性が生じ得ないものではない。」
● 知財高判平25・2・28 平成24年(行ケ)10165
「 本件補正発明において、静摩擦係数の下限値0.20及び上限値0.28にどの程度の臨界的意義があるかは明らかとはいえないものの、引用例2の静摩擦係数とは技術的意義が異なる以上、引用例2に基づき相違点2に係る本件補正発明の構成を容易に想到することができるということはできない。」