[作成・更新日:2018.1.10]
特許法29条2項は、いわゆる進歩性に関する規定ですが、「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。」と規定されていることから、容易想到性に関する規定と解され、したがって、当該規定の該当性に発明の効果は必ずしも要件とはされない、との見解があります。
しかし、発明の効果は、発明が従来技術と比較して進歩性を有するか否かを判断する上で、重要な考慮要素とされるのが通例であり、発明の効果を参酌することは実務的には定着しているところです。特許庁作成の特許・実用新案審査基準においても、「有利な効果」は進歩性が肯定される方向に働く要素の一つとして挙げられています(「第III部 特許要件」「第2章
新規性・進歩性(特許法第29条第1項・第2項)」「第2節 進歩性」「3. 進歩性の具体的な判断」)。
ところで、無効審判や審決取消訴訟においては、明細書の発明の詳細な説明における記載に基づいて訂正された特許請求の範囲に記載された発明の当該訂正に係る構成の容易想到性が争点になることが多いのですが、その構成の効果までは発明の詳細な説明に記載されていない場合、当該構成に基づく発明の効果を主張しても、なかなか認められることはありません。そのような不都合が生じないよう、明細書の作成時、発明の詳細な説明には、実施形態の全体的な作用効果はもちろんのこと、各構成ないし技術的手段ごとの部分的な作用効果もできるだけ記載するようにすることが重要なことといえます。
なお、発明の効果が顕著なものであるとして進歩性が認められるケースは少ないこともあって、発明の効果を主張しようとする場合、構成の非容易想到性の主張の一環として行うこともぜひ検討しておきたいところです。