[作成・更新日:2018.1.10]
● 東京高判平4・11・5 平成4年(行ケ)12 知的財産例集24巻3号980頁、判時1470号137頁
「 どのような作用効果を奏するかが明細書に記載されている限り、当業者は明細書の記載から当該発明の奏する作用効果を知ることができるのであるから、限定された数値範囲外のもの(比較例)との間に作用効果上の差異があることは明細書に記載されることが望ましいが、出願人において、他の補充的資料によりこれを証明することが許されないというものではない。」
● 東京高判平5・12・14 平成4年(行ケ)168
「 数値限定の臨界的意義については、それが明細書に具体的に記載されていなくとも、どのような作用効果を奏するかが明細書に記載されている限り、当業者はその記載から当該発明の奏する作用効果を知ることができるから、限定された数値範囲内のものがその範囲外のものに比して格別に顕著な作用効果を奏することを出願人において他の補助的資料により証明することが許されないというものではない。」
● 東京高判平14・5・21 平成11年(行ケ)434
「 本件考案は、数値限定①及び数値限定②のみを特徴とするものであること、このような場合、本件考案の新規性ないし進歩性が肯定されるために、明細書において、数値限定①あるいは数値限定②の根拠(具体的には、数値限定①あるいは数値限定②を採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)が明確に記載されていなければならないと解される」
● 知財高判平21・8・31 平成20年(行ケ)10354
「 コアの中心付近の硬度を低めに抑えるといった有利な効果は、本願明細書からは推断できないのであるから、原告の上記主張は本願明細書の記載に基づかない主張・・・本願発明が従来技術と対比して有する有利な効果を根拠にして、その技術的意義を主張しているが、意見書(甲16)に記載された実験結果については、上述のとおり本願明細書に何ら記載がなく、かつ、明細書及び図面の記載の全体を総合しても予想することができないものであって、参酌すべきではない」
● 知財高判平22・7・15 平成21年(行ケ)10238 判時2088号124頁、判タ1337号126頁
「「発明の効果」について、何らの記載がないにもかかわらず、出願人において、出願後に実験結果等を提出して、主張又は立証することは、先願主義を採用し、発明の開示の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に反することになるので、特段の事情のない限りは、許されないというべきである。
また、出願に係る発明の効果は、現行特許法上、明細書の記載要件とはされていないものの、出願に係る発明が従来技術と比較して、進歩性を有するか否かを判断する上で、重要な考慮要素とされるのが通例である。出願に係る発明が進歩性を有するか否かは、解決課題及び解決手段が提示されているかという観点から、出願に係る発明が、公知技術を基礎として、容易に到達することができない技術内容を含んだ発明であるか否かによって判断されるところ、上記の解決課題及び解決手段が提示されているか否かは、「発明の効果」がどのようなものであるかと不即不離の関係があるといえる。そのような点を考慮すると、本願当初明細書において明らかにしていなかった「発明の効果」について、進歩性の判断において、出願の後に補充した実験結果等を参酌することは、出願人と第三者との公平を害する結果を招来するので、特段の事情のない限り許されないというべきである。
他方、進歩性の判断において、「発明の効果」を出願の後に補充した実験結果等を考慮することが許されないのは、上記の特許制度の趣旨、出願人と第三者との公平等の要請に基づくものであるから、当初明細書に、「発明の効果」に関し、何らの記載がない場合はさておき、当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には、記載の範囲を超えない限り、出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり、許されるか否かは、前記公平の観点に立って判断すべきである。
・・・
確かに、本願当初明細書には、本件【参考資料1】実験の結果で示されたSPF値及びPPD値において、従来品と比較して、SPF値については約3ないし10倍と格段に高く、PPD値についても約1.1ないし2倍と高いこと等の格別の効果が明記されているわけではない。しかし、本件においては、本願当初明細書に接した当業者において、本願発明について、広域スペクトルの紫外線防止効果と光安定性をより一層向上させる効果を有する発明であると認識することができる場合であるといえるから、進歩性の判断の前提として、出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許され、また、参酌したとしても、出願人と第三者との公平を害する場合であるということはできない。」
※ 知財高裁が外国向けにトピック判決として紹介しているケース
● 知財高判平25・3・18 平成24年(行ケ)10252
「 原告は、甲9に記載された実験データを参酌すべきである旨主張する。しかし、上記のとおり、本願補正発明について、4mm等の従来のRNase Hと比べて非常に低いマグネシウム濃度条件下において十分に高いRNaseH活性を示すという効果が本願明細書に開示されているとはいえないから、その効果について示す上記実験データは本願明細書の記載から当業者が推認できる範囲を超えるものであって、参酌することはできないというべきである。」