顕著な効果

[作成・更新日:2018.1.10]

 本件発明と引用発明との相違点に係る本件発明の構成が引用発明からあるいは引用発明に他の技術事項を適用等することにより容易想到であるかどうかにかかわらず、引用発明と比較した有利な効果が本件発明に係る出願当初の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものである場合、本件発明が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない場合があり、このような場合の発明の効果を「顕著な効果」といいます。
 審決取消訴訟における取消事由や侵害訴訟における無効の抗弁に対するものとして、顕著な効果を主張するケースが少なからずありますが、化学分野はさておき、それ以外の分野で顕著な効果が認められることは稀であるというのが実際のところです。

 

● 東京高判平14・3・28 平成12年(行ケ)312
「 特許制度は、「創作」を保護する制度であり(特許法1、2条参照)、「発見」自体は、保護の対象としていない。他方、特定の発明の作用効果は、客観的には、すべて、当該発明の構成の必然的な結果であり(逆にいえば、当該構成の必然的な結果でないものを当該発明の作用効果とすることはできない。)、構成とは別の要素として存在し得るものではない。そうだとすると、構成自体は既に公知となっている発明についてはもちろん、構成自体についての容易推考性の認められる発明についても、その作用効果のみを理由に特許性が認められるということは、本来あり得ないことである、ということもできるであろう。ただ、構成自体についての容易推考性の認められる発明であっても、その作用効果が、その構成を前提にしてなおかつ、その構成のものとして予測することが困難であり、かつ、その発見も困難である、というようなときに、一定の条件の下に、推考の容易なものであるとはいえ新規な構成を創作したのみでなく、上記のような作用効果をも明らかにしたことに着目して、推考の困難な構成を得た場合と同様の保護に値すると評価してこれに特許性を認めることには、特許制度の目的からみて、合理性を認めることができると考えられる。しかし、このような立場に立ったとしても、特許制度は上記のとおり「創作」を保護するものであって「発見」を保護するものではない、ということを前提にする限り、構成自体の推考は容易であると認められる発明に特許性を認める根拠となる作用効果は、当該構成のものとして、予測あるいは発見することの困難なものであり、かつ、当該構成のものとして予測あるいは発見される効果と比較して、よほど顕著なものでなければならないことになるはずである。」

 

● 知財高判平22・7・15 平成21年(行ケ)10238 判時2088号124頁、判タ1337号126頁
「 本願発明は、同実験結果を参酌すれば、引用発明に比較して当業者が予期し得ない格別予想外の顕著な効果を奏するものであって、引用発明から容易に発明をすることができなかったというべきであるから、審決が、本願発明は予想外の顕著な効果を奏するとはいえず、引用発明から容易に発明をすることができたとした点に誤りがあると解する。・・・
・・・
 出願に係る発明の効果は、現行特許法上、明細書の記載要件とはされていないものの、出願に係る発明が従来技術と比較して、進歩性を有するか否かを判断する上で、重要な考慮要素とされるのが通例である。出願に係る発明が進歩性を有するか否かは、解決課題及び解決手段が提示されているかという観点から、出願に係る発明が、公知技術を基礎として、容易に到達することができない技術内容を含んだ発明であるか否かによって判断されるところ、上記の解決課題及び解決手段が提示されているか否かは、「発明の効果」がどのようなものであるかと不即不離の関係があるといえる。」

※ 知財高裁が外国向けにトピック判決として紹介しているケース

 

● 知財高判平23・1・31 平成22年(行ケ)10122
「 一般に、当該発明の容易想到性の有無を判断するに当たっては、当該発明と特定の先行発明とを対比し、当該発明の先行発明と相違する構成を明らかにして、出願時の技術水準を前提として、当業者であれば、相違点に係る当該発明の構成に到達することが容易であったか否かを検討することによって、結論を導くのが合理的である。そして、当該発明の相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かの検討は、当該発明と先行発明との間における技術分野における関連性の程度、解決課題の共通性の程度、作用効果の共通性の程度等を総合して考慮すべきである。この点は、当該発明の相違点に係る構成が、数値範囲で限定した構成を含む発明である場合においても、その判断手法において、何ら異なることはなく、当該発明の技術的意義、課題解決の内容、作用効果等について、他の相違点に係る構成等も含めて総合的に考慮すべきであることはいうまでもない。」

 

● 知財高判平23・11・30 平成23年(行ケ)10018 判時2134号116頁、判タ1388号305頁
「 当該発明が引用発明から容易想到であったか否かを判断するに当たっては、当該発明と引用発明とを対比して、当該発明の引用発明との相違点に係る構成を確定した上で、当業者において、引用発明及び他の公知発明とを組み合わせることによって、当該発明の引用発明との相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かによって判断する。相違点に係る構成に到達することが容易であったと判断するに当たっては、当該発明と引用発明それぞれにおいて、解決しようとした課題内容、課題解決方法など技術的特徴における共通性等の観点から検討されることが一般であり、共通性等が認められるような場合には、当該発明の容易想到性が肯定される場合が多いといえる。
 他方、引用発明と対比して、当該発明の作用・効果が、顕著である(同性質の効果が著しい)場合とか、特異である(異なる性質の効果が認められる)場合には、そのような作用・効果が顕著又は特異である点は、当該発明が容易想到ではなかったとの結論を導く重要な判断要素となり得ると解するのが相当である。

 

● 知財高判平24・11・13 平成24年(行ケ)10004
「 引用発明1は、・・・等の効果を奏する良好なシュープレス用ベルトを提供するというものであり、また、引用発明2は、発ガン性等がない安全な硬化剤を提供するというものである。これに対し、本件発明1は、・・・ベルトの外周面を構成するポリウレタンにクラックが発生することを防止できるという効果を奏するものであり、特に、以下のとおり、本件特許出願時の技術水準から、当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものと認められる。」

 

● 知財高判平25・10・3 平成24年(行ケ)10415
「 発明が引用発明から容易想到であったか否かを判断するに当たっては、当該発明と引用発明とを対比して、当該発明と引用発明との構成上の相違点を確定した上で、当業者が、引用発明に他の公知発明又は周知技術とを組み合わせることによって、引用発明において相違点に係る当該発明の構成を採用することを想到することが容易であったか否かによって判断するのを原則とするが、例外的に、相違点に係る構成自体の容易想到性が認められる場合であっても、当該発明が奏する作用効果が当該発明の構成そのものから当業者が予測し難い顕著なものであるときは、その作用効果が顕著である点において当該発明は特許法の目的である産業の発展に寄与(同法1条)するものとして進歩性を認めるべきであるから、当該発明が引用発明から容易想到であったとはいえないものと解するのが相当である。

 

● 知財高判平26・7・30 平成25年(行ケ)10208
「 本来、効果についての判断は、発明の構成が容易想到であるにもかかわらず、例外的に進歩性を認める場合の事情として格別顕著な効果があるか否かの検討の結果示されるものである。